第94話 書籍版02番外編『みさみさパニック②』


 どういうことだ。

 なにが起こっているんだ。


 その岬に話を聞いた。

 彼女のいた山田村は、ここよりもっと小さな場所らしい。


 おれと岬、柳原にカガミ一家。

 ジャガイモ畑で収穫をして、コロッケ大会を行った。

 住みよくするため、レンガのバーベキュー炉などを制作していたらしい。


 ちょうどサチたちと出会ったころと同じだ。


 興味深かったのは、向こうのおれにはヘンテコなスキルがあるらしい。

 案山子とか制作すると、それがモンスター除けのスキルを発動してくれたという。


「……おれにもあるのかな?」

「試しになにか作ってみればいいんじゃないですか?」


 そうだな。せっかく広い土地があるんだし……あ、いや、そういう話をしている場合ではない。


 暫定的な結論を出してみるなら。


『別の世界の岬が迷い込んじゃったぞ☆』


 ということになる。


 でも、そんなことあるんだろうか。

 こんな変なゲーム機があるんだし、ありそうと言えばありそうだけど。



 ***



「ということで、確認にきたぞ」

「あ、そうですか。お疲れさまです」


 夜が明け、こっちの岬の家だ。

 わけがわからないな。

 とにかく、もともとの岬だ。


 ちなみに来るのは二度目だ。

 手土産を選ぶのに一時間くらいかかった。


「親御さんは?」

「今日は休みなので、二人でデート行ってます」

「相変わらずラブラブだな」

「まあ、気持ちが若いのはいいと思うんですけど」


 それよりも、二人目の岬のことが気になっているようだ。


「ところで、その、わたし? の写真は?」

「ああ、これだ」


 証明のためにスマホで撮ってきた。

 もう一人の岬が、哭犬族のモフモフたちを抱きしめてご満悦である。


「わたしだ!?」

「だから言ったろ」

「うわあ、ほんとに……ゴホ、ゴホッ!」

「す、すまん。無理させすぎたな」


 思ったより風邪が酷いらしい。

 とりあえず報告だけしてお暇した。


「わたしが可愛いからって浮気しちゃダメですよー!」

「うん、……うん? うん、わかった」


 哲学だった。


 山田村に戻ると、こっちの岬の動向をチェック。


「カガミ。どうだ?」

「ええ。ずっと子どもたちをモフモフしてました。外には出ていません」


 その岬は、どうしているのかというと……。


「捕まえちゃうぞー」

「きゃーっ」

「へっへっへー、捕まえたぞー」

「きゃーきゃーっ」


 子どもたちと鬼ごっこをしていた。


 鬼ごっこ……だよな?

 目がマジすぎて、子どもの「きゃーっ」が「ギャアアッ!」に聞こえるんだけど。


「おーい」

「あ、お帰りなさーい」


 ……ううん。

 でも、アレだな。

 こうして見ると、いよいよ岬の分身だな。


「ええっと、……岬さん?」

「うわ、いきなりさん付けとかキモい」


 キモいって言われてしまった。

 この岬、けっこう口が悪いよな。


「口が悪いのは先輩のせいでしょ」

「わ、心を読んだ!?」

「いや、先輩ってたまに考えてること口に出てますよ」


 マジか。

 知らなかったんだけど。

 どうして誰も教えてくれなかったんだ。


「なんで、おれのせいで口が悪いんだ?」

「先輩が優しく言っても聞かないからですよ!」


 あ、ごめんなさい。

 おれじゃないけど、他人事のような気がしないな。


「それで呼び方ですか?」

「ああ。一応、区別がほしいなと」

「確かに、それは一理ありますね。なら、こちらの呼び方でお願いします」


 コホン。


「可愛い可愛い有能後輩の岬ちゃん♡」

「いつも通り『岬』で」

「あーっ! なんでもいいって言ったくせに!」

「さりげなく条件を付け加えるなよ」


 おれで遊ぶんじゃないよ。

 こっちの岬とテンションが違うからびっくりしちゃうぞ。


「とにかく、この状況をどうにかしないといけないわけだが」

「え、しないとダメですか?」


 おおっと、まさかの。


「帰りたくないのか?」

「うーん。まあ、あえて答えるなら、ぶっちゃけ帰りたくないですね」


 マジか。

 どうりで落ち着いてるなあと思った。


「ちなみに理由は?」

「だって、こんなモフモフパラダイス! この先の人生で体験できるかどうか!」


 こいつ、モフモフに人生を支配されている……!


「しかし、困ったな。どうしてこんなことになったのかもわからないし……」

「あ、そういうのなら、たぶんゲーム機を見ればいいですよ」

「ゲーム機?」

「いつも、だいたい都合のいい情報が載ってますから」


 都合のいい情報?


 こっちの岬の勧めに従い、アパートに戻った。


「わ、お部屋、ちゃんと片付いてるじゃないですか」

「ああ、岬が掃除してくれるんだ。別にしなくてもいいって言ってるんだが」

「へえ。なるほど……」


 ……なんか普通に穴を通ってきて驚いたな。

 このまま二人の岬が出会ってしまったらどうなるんだろう。


 とにかく、二人でゲーム機を覗き込んだ。


「どこだ?」

「ほら、そこの『☀』マークがヒントです」


 確かにゲーム機の隅っこに『☀』があった。

 それをタッチしてみる。


――――――――――――――――――――――――

■ 特殊クエスト《みさみさパニック》 ■


  山田村に書籍版の岬が迷い込んでしまったぞ

  彼女の望んでいるものをあげて、元の山田村に帰してあげよう


 ○勝利条件 : 岬のご機嫌【A】達成

 ●敗北条件 : 岬のご機嫌【D】低下

――――――――――――――――――――――――


「うわ、ゲームっぽい!」

「わたしたち、だいたいこれに振り回されてますからね」


 へえ。

 向こうのおれは大変だなあ。


「この書籍版って?」

「さあ。それは知りませんけど」


 触れたらいけない気がするので、これは放っておこう。


「おまえを楽しませろって書いてるぞ」

「そうですね。頑張ってください」

「他人事だなあ」


 しかし『ご機嫌【A】達成』か。

 ……つまり、どういうことだろうか。


「まあ、いつもと違って制限時間もないし、気楽にやればいいんじゃないですかねえ」


 ゲーム機の中に戻っていってしまった。

 哭犬族の子どもを捕まえてモフモフしている。


 ……なんか緊張感ないなあ。

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