第92話 ビンゴゲームは続く
結局、ダリウスは麻雀ボードを獲得した。
おじさん連中と遊ぶらしい。
それからもビンゴゲームは続く。
まずヤギの爺さんが、意外にもエプロンセットを獲得。
なんでも、その繊維や構造が気になるらしい。
哭犬族の子どもが、サッカーボールを獲得。
そして炊事担当のお母さんが、果実酒のセットを獲得。
「しかし案外、アクセサリーとか選ばないんだな」
けっこうお高いやつのはずだ。
てっきり、すぐに取られると思ったが。
「確かに魅力的ではあるのですが、この村で生活する以上はあまり意味がないといいますか……」
「そうなのか?」
「はい。お金がなくても衣食住には困りませんし、むしろトラブルの種になる可能性もあります。それよりは日々の嗜好品のほうがいいのかもしれません」
なるほど。
イトナが言うと説得力あるな。
なにせウィスキーセットで殺し合いをしようとしたくらいだし。
「次の景品の参考にしよう。さて、次に行くぞー」
そわっ。
そわそわっ。
くじを引くたびに、サチの尻尾が揺れている。
そして誰かが景品を獲得するたびに、涙目で見送っている。
頑張れ、サチ!
頑張るんだ、サチ!
おれは祈ることしかできないが、ここで見守っているぞ!
そして、おれの祈りは確かに通じたのだ!
『次は72だ!』
ぴーん!
サチの尻尾が立った。
「サチが当たりました!」
ウキウキと景品のところまで走ってくるサチ!
そして、それを迎えるおれたち!
しかし!
「おれも当たったぞい!」
大工の棟梁がやってきた。
また二人同時だったらしい。
まあ、この二人は正反対だし、さっきのような地獄絵図には……。
「おれも当たりました!」
なに?
「あの、わたしも……」
ぬぬぬ?
どんどん増えていく当選者たち。
いったい、なにが……。
「山田さま。わたくしも当たりました」
メリルだった。
これで合計、10人だ。
「な、なんてことだ……」
それぞれのカードを見比べていく。
確かにすべて列ができていた。
……というか。
「先輩。これ全部、同じカードですね」
「……そうだな」
★ 説明しよう! ★
ビンゴカードは制作の都合上、
けっこう『同じ配列のカード』があったりする!
イベントのためにまとめて購入すると、
こういうバッチングが起こる可能性があるのだ!
もし企画などを任された場合は、
別のメーカーのものを混ぜたりして事故の確率を抑えるといいぞ!
以上、山田おじさんの豆知識だ!
「ど、どうします?」
「どうしようか」
残りの景品は4つ。
どうやっても10人では足りない。
とはいえ、取る道は一つしかないだろう。
『それでは、《せーのっ!》で希望の景品を宣言してください。もし重なった場合は、そこで争奪戦を開催します!』
はーいっ。
突如として始まったサドンデス戦に、観客たちも盛り上がっている。
やんややんやと参加者をはやしたてていた。
『せーのっ!』
結果発表。
まずガッツポーズは、騎士団の青年!
一人だけ、岬のアクセサリーをチョイス!
「おれ、街に帰ったらこれでプロポーズするんだ!!」
騎士団の連中が大いに盛り上がっていた。
なぜか胴上げまで始まっている。
おれ、知ってるぞ。
それはフラグっていうんだ。
漫画で読んだから詳しいんだぞ。
『それでは、エプロンセットですが……』
すでに腕相撲が始まっていた。
主婦同士の熱いバトルだ。
……ジャンケンにしようと思ってたんだけど。
この村の住人って、基本的に血の気が多いよな。
普段は穏やかな分、こういうときのギャップがすごい。
そして、次はチェス盤。
獲得したのは、筋肉ムキムキの大工さんだ。
騎士団の若いやつらを倒して獲得。
そして意外にも、最も層が厚いのが……。
『では、最後に山田村長との一日デート権です!』
希望者。
サチ!
メリル!
大工の棟梁!
チョコアイス!
……いたのか、チョコアイス。
いや、もちろん問題ないぞ。
ご飯のときに見当たらなかったから、びっくりしただけだ。
しかし、アレだな。
サチやメリルは一応わかるんだけど、問題は後半の二名だ。
「……棟梁よ。おっさん同士でデートしたいのか?」
「ガッハッハ! まさか、そんなわけねえだろ!」
肩をバシバシ叩いた。
「こいつはつまり、おまえさんの世界を体験できるチケットってことだろ?」
ざわわっ!
観客が反応した。
そして岬が肯定する。
「その通りです! このチケットは、つまりそういうことですね」
「ああ、なるほどなあ」
確かに、おれとこっちの世界をお散歩しても景品にはならない。
そう考えると、彼らにとっては貴重な機会というわけだ。
しかし、頭がキレるなあ。
おれはまったく気づかなかった。
見た目で判断するわけではないが、さすがは棟梁だ。
『それでは、さっそく腕相撲大会です!』
まずはサチvsメリルの対戦だ!
「ふ~~~~んっ!」
「…………」
「ふ~~~~~~~~んっっ!」
「……………………」
サチが顔を真っ赤にして、腕を押している。
それに対して、メリルは困った様子だ。
微動だにしない。
まあ、メリルはすごく強いからな。
おれのほうをうかがってくる。
手を合わせると、苦笑してうなずいた。
「……あー、もう腕が疲れてしまいましたー」
すごく棒読みで、メリルが自分の腕を倒した。
サチが満面の笑みで飛びついてくる。
「神さま、やりましたーっ!」
「お、おう。やったなー」
そして第二ラウンド。
棟梁vsチョコアイス。
「モンスターと喧嘩できるなんざ、すげえ体験だぜ!」
フンッと上半身に力を込めると、作業着がビリビリッと破れた!
ジ○リだ。ジ○リで見たことあるやつだ!
『…………』
チョコアイスは、のぺーっとしていた。
『それでは、構えて。……ファイッ!』
ズドンッ!!
一瞬だった。
チョコアイスの爪先が、棟梁の腕をあっさり倒していた。
棟梁は目をぱちくりさせたあと、ガッハッハと高笑いした。
「いやあ、こいつはすげえなあ!」
『…………』
バッシバッシとその爪を叩いた。
どうやら、妙な友情が生まれた……のか?
『それでは、最終決戦です!』
サチvsチョコアイス!
「……無理じゃないか?」
「うーん。でもさっちゃん、やけに自信ありげですけど……」
一見、圧倒的にサチが不利!
しかし、ここで秘策を講じてきた!
「へーんしんっ!」
日曜朝アニメのポーズで、サチが巨大オオカミに変化した!
確かに、これなら体格差は……まあ、ちょっとは解消できそうだ!
『チョコアイス! 今日は負けません!』
『…………』
『フッフッフ。恐ろしさのあまり、声もでないようです!』
いや、いつもあんなもんだぞ。
どやっているオオカミサチも可愛らしいなあ。
『それでは両者、構え!』
腕相撲の体勢に入る。
食器の片付けを終え、柳原が戻ってきた。
「……ていうか、のんきにしてて大丈夫なのか?」
「なにがだ?」
「あのモグラが勝ったらどうするんだよ」
「アッハッハ。それはないだろ」
チョコアイスは、すごく賢いからな。
サイズ的にも、自分が異世界に行けないと理解しているはずだ。
サチとは仲もいいし、きっと花を持たせてくれるだろう。
『ファイッ!』
ズドンッ!!
一瞬の静寂。
そして、爪先で転がるサチ。
爪をぽかぽか叩いて悔しがっている。
『……勝者、チョコアイース』
柳原が笑いをこらえようとして失敗した。
お腹を押さえながら、おれの肩を揺すってくる。
「ぶはっ。くくっ。おまえ、マジでどうすんだよ……」
「…………」
うーん。
なんとかなる……かなあ。
まあ、明日の会社で考えよう。
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