第48話 クエスト発生まで、あと6時間


 作戦の概要を伝えると、岬も同意した。


「……それなら、できるかもしれませんね」


 柳原は半信半疑だ。


「本当に、そんなことが可能なのか?」


 まだ見たことないメンバーには、あとで実演するしかないだろう。


「……サチたちも、それで大丈夫か?」


 ある意味では、彼女たちに最も危険な役目を押し付けることになる。


「はい。頑張ります!」


 カガミに対する裏切りかもしれないが、この手順は必要だ。

 でなければ、おれたちは全滅する可能性もある。


「メリル。おまえにも、危険な役目を押し付けてすまない」

「いえ。あの〝食い散らかし〟を放っておけば、ご主人さまも危機に陥ります」


 嫌な言い方だが、人質がメリルでよかった。


「でも、まだ問題はあるだろ」

「なんだ?」

「うまく、あいつらを誘導できるのか?」

「……それだな」


 この作戦の、致命的な弱点。

 それは、傭兵団の行動が読めないところだ。


 一応のプランは立てたが、その問題が残っている。

 これでは作戦ではなく、ただの空想だ。


 一気に空気が沈む。

 おれたちが首をひねっていると、イトナがやってきた。


「神さま。お夜食、お持ちしました」

「ああ、ありがとう」


 じゃがバターだった。

 シンプルだが、空腹に染みる。


「いい匂いですね」

「ああ、やっぱり、この村の作物はうまいな」


 腹が減っては戦はできぬ。

 もりもり食べていると、ふと柳原と目が合った。


「……いま、思いついた」

「ああ、おれも同じだ」


 岬が首をかしげる。


「どうしたんですか?」

「いや、あいつらを誘導する方法を思いついたんだよ」


 ごにょごにょと、岬に説明する。


「ああ、なるほど。でも、そんなに同じ方向に走りますかね」

「なに。まず実践して見せておけばいいだろ」


 おれたちが悪い笑みを浮かべているのを、サチたちがぽかんとした顔で見ていた。




 作戦は決まった。

 おれたちは実験をしたあと、それが可能という結論に至った。


 まずは仮眠を取る。 

 そして日が昇ると同時に行動を開始した。


 おれと岬、そしてメリルの三人は、外へ買い物。

 そして柳原、サチ、イトナは現場の準備に取り掛かる。


 まず開店と同時に立ち寄ったのは、すっかり馴染みになったホームセンターだ。

 ここで必要なものを大量に買い込んでいく。


「先輩。蛍光ペンキはあっちですね」

「ええっと、どの色がいいんだ?」

「まあ、統一する必要はないんじゃないですかね」


 とにかく目立ちそうな色を片っ端から購入した。


 そして次は、ひとが隠れられそうなものを探す。


「……これなんか、どうですか?」


 それはカバー付きの簡易クローゼットだった。

 組み立て式なので、山田村で設置できる。


「よし、それにしよう」


 配送は夕方になると言われたので断った。

 かなり重いが、はやく帰って作業に移らなくてはいけない。


「メリルのほうはどうだ?」

「はい。わたしはこれがよろしいです」


 柄の長い農業用フォークだ。

 貴重な戦闘要員だから、自分に合った武器を装備してほしい。


 最後に薬局に寄って、アパートに戻る。


「ケモミミ娘。もっとしっかり混ぜろ」

「は、はい! 頑張ります!」

「あの、眷属さま。パン粉というのがなくなりました」

「ああ。じゃあ、コンビニに行って……」


 こっちでは、大料理会が行われている。

 山と積まれたコロッケが、次々に出来上がっていた。


「おい、言われたものを買ってきたぞ」

「ああ、そっちに置いておいてくれ」

「先に揚げたのは、どうするつもりだ?」

「そっちは仕掛けに使うやつと、おれたちの夜食だ」


 さすが抜かりない。


「じゃあ、これから揚げるのが本命か」

「そうだな。できれば揚げたてを用意したいが、しょうがねえ」

「いや、冷めても十分、うまいと思うよ」


 そちらの悪だくみの指揮は柳原に任せ、おれたちは山田村に向かった。


 荷物を小屋の前に置いた。

 まずはクローゼットを組み立てる。

 組み立て終わると、設置場所を決めた。


 そちらが完了すると、次はペンキだ。


「せーの!!」


 岬の掛け声に合わせて、ドバドバと草原にまいていく。

 洋式トイレまで一直線だ。


 少し余ったので、ついでに小屋の壁にもかけておく。

 目印はあったほうがいいからな。


「……でも、先輩は大丈夫なんですか?」


 岬が心配そうに聞いてくる。


「大丈夫だ。それよりも、頼むぞ」

「……こんな大役、わたしで大丈夫でしょうか」


 珍しく、岬が弱気な様子だった。


「大丈夫だ。おまえならできる。いや、おまえにやってほしい」

「……はい。絶対に、うまくやります」


 ホッと息をつく。


 これは、半分は本音。

 そして半分は、悪いが彼女への冒涜だ。


 ……もし、失敗した場合。


 彼女だけでも、おれは生き残ってほしいと思ってしまった。


「よし、準備を進めるぞ」

「はい!」


 そんなこと、恥ずかしくて言えるはずもないのだが。


 クエスト発生まで、あと6時間。

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