第23話 己の欲望に


―【村人と交流する】をクリアしました―


―100ポイントを獲得しました―


―レベルが上がりました―

◇山田 村 

  ◆レベル   4(次のレベルまで55ポイント)

  ◆人口    3

  ◆ステータス 高揚

  ◆スキル   なし


―増築が可能になります―

◆水車

◆水路

◆温泉


―以下から、新しいスキルを選択してください―

◆開拓速度アップ

◆モンスター出現率ダウン

◆気候変化抑制C



 やった!

 よくわからないが、レベルが上がったようだ。


 しかし、クエストか。

 ゲームで言うなら、隠された条件をクリアしたというところだろう。


 まさか、村人と接触することが必要だったとは。

 もしかしたら、他にもクエストがあるのかもしれない。


 そして新しい項目に注目する。


 この『増築』だ。

 前回の『増設』とは、微妙に違うらしい。

 つまり『川』に関係する施設を増やせるということか。


 問題は、これを増やすことで、カガミたちがどういう恩恵を得るのかということだ。


 まずは『水車』だ。

 揚水、脱穀、製粉などを行う原動機。

 食生活の幅が広がるということだろうか。


 そして『水路』だ。

 水を引くことができるというのは、つまり農業が発展するということだろう。

 しかしジャガイモの場合は、水は少量で済むらしい。


 だが少量でいいとはいえ、一反もの畑に使用する水を一回ずつ汲んでいくというのはきつい。

 それに水路があれば、作物の種類も増やせるはずだ。


 冷静に考えれば、『水路』で間違いはないだろう。



 ――だが!



「温泉、いいなあああ……!!」


 日本人として、この魅力に抗えるものだろうか。


 ぜひとも設置したい。

 そして入りたい!


 だが、それが直接、サチたちの利益になるのだろうか。

 もしかしたら、向こうには湯に浸かる文化がない可能性もある。


 ぐぬぬぬぬ……!



「す、水路を設置……!」



―水路が引かれます。このコマンドは、以降も選択が可能です―



 勝った!

 己の欲望に!


 惜しいが、温泉はまた今度にしよう。

 川があれば、きっとまた設置する機会もあるだろう。


 見ると、川から畑のほうに水色の線が生まれた。

 カガミたちが喜んでいるのがわかる。


 前回の『道』や『丘』を選ぶと、他の施設ができたということだろう。


 すごく気になる。

 ケチケチせずに、どんどん増やさせてくれてもいいだろうに。


 おっと、そうだ。

 新しいスキルを獲得しよう。


 やはり『開拓速度アップ』だ。

 カガミの作業効率が上がるようだし、さらに上げておこう。


 そのうち、山田村も夜になった。

 おれも自分の食事にする。


 しかし、料理か。

 とりあえず、明日、フライパンを買ってきて考えよう。




 それから週末まで、大きな問題もなく過ごした。

 相変わらず、山田村に届けられるのはおにぎりだけだったが。


 日曜日の朝、アパートのチャイムが鳴った。


 岬がやってきたのだ。

 先日よりも大荷物だった。


「先輩、おはようございます!」

「休みのたびに、すまんな。なにか用事があったんじゃないか?」

「いえ。ぜんぜんオッケーです!」


 ぜんぜんオッケーらしい。

 若い娘さんが、せっかくの休日にそれでいいのだろうか。

 おじさん心配になっちゃうぞ。


 ホームセンターから届いた種芋や肥料は、昨日のうちに送っておいた。

 カガミたちがそれを運んでくれているはずだ。


「それじゃあ、今日も留守番を頼んでも……」

「えええ!? わたしも行きたいです!」


 即座にブーイングが飛んできた。

 まあ、それもそうか。


「でも、どっちかが残っていないと、帰れなくなるぞ」

「それについては、妙案があります!」


 そういえば、なにか買い物袋を提げている。

 勿体ぶりながら、中身を取り出した。


「鎖です」

「鎖だな」


 中高生がファッションで身に着けているやつではない。

 ブランコに使われていそうな、太くて頑丈そうな鎖をジャラジャラと取り出した。


「これを穴の中に垂らせば、それを伝って戻れるんじゃないですか?」

「ああ、なるほどな」


 それは考えなかった。

 もし成功すれば、二人で向こうに行くことができる。


「よし。じゃあ、試してみるか」


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