第29話 なってない


 山田村のレベルが上がった。

 ジャガイモが収穫を迎え、経験値を得たようだ。



―レベルが上がりました―

◇山田 村 

 ◆レベル   9(次のレベルまで320ポイント)

 ◆人口    3

 ◆ステータス 正常

 ◆スキル   神獣の守護


―増築が可能になります―

◆温泉

◆水路(拡大)

◆ため池

◆水車小屋

◆トイレ


―以下から、新しいスキルを選択してください(3)―

◆モンスター出現率ダウン

◆水質浄化C



 トイレ一択だな。

 こればかりは迷わない。

 山田村のシステムは、現代人としてはハードルが高かった。


 まあ、一家しかいないのだから、ちゃんとした施設がないのは仕方がない。

 これからは岬も行くのだし、しっかりとしていなければならない。


 そしてスキルは、少し悩んだ。

 先日のモグラを見てしまったあとでは、『モンスター出現率ダウン』に振りたい気持ちもある。

 しかし先日、『井戸』や『下水道』を設置した。

 ならば、この『水質浄化』は、大事なものだろう。


 おれが気づかないうちに、一家が病気になられては困る。

 ここは『水質浄化C』をチョイスだ。


 さて、いろいろ終わったが、問題は、そうだな。


 いま、例の穴からサチの腕が生えているところだな。


 どうしたのだろうか。

 いや、こっちに来たいという意思は伝わる。


 やっぱり改めて見ると、ものすごくホラーだな。


 ――ばたばたばたばた!


 わかった、わかった。

 ちゃんと引っ張るから暴れるな。


「神さま! お招きいただき、ありがとうございます!」


 はい、どうも。


「どうしたんだ? こっちに来るなんて珍しいな」

「神さまが、明日の収穫のために準備をしてくださるということで、そのお手伝いをするように父に言われました」

「そうか、すまん。気を遣わせたな」

「いえ。わたしも楽しいです!」


 とても和む。

 この子には、ずっとこのままであってほしいものだ。


 しかし、手伝いと言われてもな。

 今日の予定は、大きな鍋や食材を買い込んでくるだけだ。

 まあ、簡単な荷物持ちでもしてもらおうか。


 問題は、サチの服装をどうにかしなければならない。


 おれは慣れたが、さすがにこの前衛的な服装のまま連れ出してみろ。

 お巡りさんが飛んでくるのは確実だ。


 それに、この目立つケモミミと尻尾を隠さなくては。

 もし悪いやつに連れ去られたら、カガミたちに合わせる顔がない。


 となると、方法は一つ。

 まずはサチの服を買ってきて、改めて二人で出かけること。


 ただし、おれが一人で少女服を買ってくるというのはどうだ。

 そんな年頃の娘がいてもおかしくはないが、それでも一人で娘の服を買いに来るお父さんは珍しいだろう。

 いまのご時世では、下手すれば通報されてしまう。


 いちばん安全なのは、アパートで待機してもらうことなのだが。


「えっと、サチ……」

「はい! なんなりとお申しつけください!」


 言えるわけないだろう!

 こんなにも期待に満ちた目で見られたら、断ることはできない!


 こういうとき、どうすれば。

 いや、方法はある。


 しかし、事あるごとに頼っては、さすがに迷惑では……。


「神さま。どうしたんですか?」

「…………」


 おれは携帯を取り出した。

 すっかりと悪い癖がついてしまったな。




「来る前に、駅前のしま〇らで買ってきました」


 ヘルプを受けた岬は、昼前には来てくれた。


「すまんな。レシートあるか?」

「大したやつじゃないのでいいですよ」

「そういうわけにはいかないだろ」


 ものすごく不満そうな顔をされてしまった。


「だって、先輩ばっかりずるいですよ! わたしだって、さっちゃんのために買ってあげたいですもん!」


 それはずるいという問題だろうか。

 まあ、そう言うならお言葉に甘えさせてもらおう。


「でも、よくサイズがわかったな」

「一回モフれば、だいたいわかりますよ」

「モフ、……なんて?」

「忘れてください。ほら、着替え中は喫茶店にでも行っててください。シャワーできれいにするので、時間かかりますよ」

「お、おう。あとはよろしくな」


 そうして、近くの喫茶店で待つこと三十分ちょっと。

 完了の知らせが来たので、アパートに戻った。


「先輩、可愛くてビビっちゃいますよ」

「それは楽しみだな」


 部屋に入ると、サチが緊張した様子で迎えた。

 お洒落なシフォンブラウスに、ふわっとしたスカートという組み合わせだ。


「ど、どうでしょうか?」

「おお。よく似合ってるぞ」


 サチは嬉しそうにはにかんだ。

 てれてれとスカートをいじる仕草が、非常に可愛らしい。


 ……のだが。


「でも、ケモミミも尻尾も丸出しじゃないか?」


 岬に耳打ちすると、彼女は平然と言った。


「けっこう大きいし、隠すのは無理ですよ」

「フード付きとか、長いスカートとかあるだろ」

「暑い時期に、そんな格好させるなんて殺す気ですか?」

「いや、それはそうだが……」

「変に隠そうとするから怪しまれるんですよ。堂々としてれば、『娘に変なコスプレさせてる父親だなあ』くらいにしか思いませんって」

「でも、もし警察とかに通報されたら……」

「ちゃんと対策もあります。わたしに任せてください。それでも、もし職質されそうになったら……」


 されそうになったら?


「全力で逃げましょう」


 それはなんの解決策にもなってない。

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