第35話 見透かされているようだ


―サイドエピソード【嵐の予感】を再生しますか?―



 これは、なんだろうか。

 タイトルからして、少し不穏なものを感じる。


「……サイドエピソードを見る」


 ガラスのドームが暗転した。

 夜になったのかと思ったが、すぐに画面が切り替わった。


 そこは山田村ではなかった。

 大きな屋敷のようだ。

 赤い絨毯の敷かれた廊下を、一人のキャラクターが歩いている。


 騎士、だと思う。

 この画面ではよくわからない。

 肩口の白い花飾りが特徴的だった。


『父上!』


 その騎士は、執務室に入った。


『なぜ、やつらの要求を飲んだのですか!?』

『そうするしかあるまい』

『これでは、侵攻のきっかけを与えるだけです!』

『わかっている』

『ならば、いまからでも要求の却下を……』

『民を犠牲にするわけにはいかん!!』


 若い騎士は、強い語気で圧倒される。


『中央からの使者は?』

『この件には、一切、関与しない』

『……くそ!!』


 机を叩くと、騎士は執務室を出た。


 廊下を歩いていくと、うしろからメイドが駆けてくる。


『ご主人さま!!』


 騎士は振り返った。


『領主さまは、なんと?』

『中央は、この件には一切、関与しない』

『じゃあ、我々だけで退けるのですか?』

『そうするしか、あるまい』

『しかし、相手はあの〝食い散らかし〟を加えたと聞きます』

『それでも、ただ手をくわえて見ているわけにはいかない。あの商人とも話をしてみたが、まったくあてにはならなかった』

『ご主人さま、どこへ?』

『わたしは、わたしにできることをする!』


 そう言って、騎士は屋敷を出ていった。


『……ご主人さま』




 うん。


 さっぱりわからんな!


 いまのはなんだ?

 画面はすでに、山田村に戻っている。

 一家の団欒の証である、白い煙が立っていた。


 ドラマチックな展開があったようだが、視聴者おいてけぼりも甚だしい。

 感動させたいなら、もっと事前に知識を与えておくべきだろう。


 あっちの世界で起こったことかもしれない。

 今度、それとなくカガミに聞いてみることにしよう。


 さて、今後の予定を立てよう。


 まず畑をどうしようか。

 ジャガイモを収穫したので、次の作物を育てたい。


 9月末~10月に植える野菜をピックアップする。


 まずは玉ねぎ。

 ジャガイモと同じく定番だ。


 キャベツ。

 野菜といえばこれって感じだな。


 小松菜。

 これは春から半年以上、栽培できるらしい。


 春菊。

 冬に鍋なんか最高だな。


 ミツバ。

 吸い物に入っているが、正直、おれには風味などよくわからん。


 ニラ。

 これは2年目以降でないと、収穫ができないらしい。

 山田村の畑でも、少しかかりそうだ。


 高菜。

 自家製の漬物とか、ちょっと楽しいな。


 ルッコラ。

 うん、ルッコラな。

 どんな料理に使うのかもわからん。


 ほうれん草。

 バター炒めとか、サチも喜んで食べそうだ。


 ニンニク。

 収穫に半年かかるらしいが、ちょっと興味がある。


 冬の前だけあり、葉物が多い印象だ。

 冬の備蓄は十分だと言っていたし、少し挑戦してみたい。


 ここは岬たちにも聞いてみるか。

 あの村の仲間は、もうおれだけのものではないのだ。




 翌日、岬に昨日のリストを見せた。


「どれがいい?」

「ルッコラがいいです」


 そのとき、おれに衝撃が走る。

 まさかの大穴だった。


「る、ルッコラ?」

「はい。ルッコラ。初心者でも割と簡単に栽培できるそうです」

「いや、ほら、春菊とか、鍋とかに使えるし、そっちがいいんじゃないか?」

「先輩が言うなら、それでも。あくまで、わたしの興味があるやつなので」


 おれは首を傾げた。


「ルッコラって、うまいのか?」

「先輩。ルッコラ食べたことないんですか?」

「え。そんな一般的な野菜なのか?」


 呆れ顔だった。


「ピザの上にのってるやつですよ」

「……アレか!?」

「あとはパスタとかムニエルの添え物とか、イタリア料理によく使われます。サラダとしてがっつり食べたりもするので、使い勝手はいいと思いますけど」

「それなら、柳原も喜びそうだな」

「そう思って、言ってみました」


 岬のほうが、おれよりも先を見据えているようで悔しい。


「でも、一反の畑でルッコラだけ育てるのもアレですよね。区画を分けて、何種類か育ててみたらどうですか?」

「そ、そうだな。おれも、それがいいと思っていた」


 岬は苦笑した。

 おれの安い見栄は見透かされているようだ。


「じゃあ、とりあえずルッコラと、春菊と、あとは……」


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