第27話 さすがジャガイモさんだ


 山田村に異変が起こったのは、それから三日後のことだ。

 いつものように覗き込んで、驚いてしまった。


 ジャガイモ畑に、青々とした葉が茂っているのだ。

 見間違いかと思った。

 たった数日でこれは異常だ。


 慌ててステータスを確認する。



【ジャガイモ畑】

 キタアカリを植えた畑。

 収穫まで、あと3日。



 どうやら、例のジャガイモで間違いないらしい。


 さすがジャガイモさんだ。

 こんなに早く育つとは、世界の食糧事情の救世主だな。



 そんなわけあるか。



 まさか、これが『育成速度アップ』の効果だとでもいうのか。

 こんなの全国の農家さんが、喉から手が出るほど欲しがるだろう。


 でもまあ、いまさらこんなことで驚いてもいられない。

 収穫が三日後ということは、ちょうど週末に重なる。


 あいにくと、休日だからと遊びに行く予定が詰まっているおれではない。


 不安要素と言えば、いまだに不調を訴える腰だけだ。


 ……まあ、どうにかなるだろう。


 おれは収穫のことを考えた。


 一反もの量のジャガイモとなると、どれだけになるのだろうか。

 さすがに農業初心者には、見当もつかない。


 まあ、一家が食うに困らない量ならいいのだが。

 どちらにせよ、収穫の人手は多いに越したことはないだろう。


 一応、岬にも声をかけてみる。

 土曜か日曜、空いているか、っと。


『行きます! どっちでもOKです!!』


 返信に10秒もかからなかった。

 ここ数週間、ずっと手伝ってもらっている。

 申し訳ない気もするが、本人がいいと言うならいいのだろうか。


 これで、一家も合わせて五人だ。

 おれの腰のことを考えると、まだ助っ人が欲しいな。


「……あいつはどうだろうな」


 おれはメールを打った。

 ついでに、もう一つ、目的を思いついた。




 その翌日、仕事終わりになった。

 岬がわくわくした感じで聞いてくる。


「先輩。今日はなにかするんですか?」


 ここ数日、ずっとこの調子だ。

 気持ちはありがたいし、こいつもきっと楽しんでいるのだろうが、平日は基本的に、異変がないかチェックして、おにぎりを入れるだけだ。


「今日は、ちょっと大学の友人に会いに行く約束だ」

「え、先輩。お友だちいたんですか?」

「失礼だぞ。一人くらいはいる」

「一人しか、いないんですね」


 墓穴だった。


「とにかく、おれは帰るからな」

「ちぇ。今日は先輩の料理特訓のための偵察に行こうと思ったのに」

「どういうことだ?」

「ほら、見てくださいよ。このレストラン、よくないですか?」


 携帯の画面には、確かにおいしそうなイタリアンが並んでいる。

 しかし、山田村にあるのは鍋だけだ。

 こんなものが作れるとは思えない。


 もしかして、自分が食べたいだけでは?


 それならそれで、ちょうどいいのだが。


「暇ならおまえも行くか? 飯も出るぞ」

「え、いいんですか?」

「まあ、ダメな理由はないからな」


 こうして、おれたちは大学の友人がやっている店に向かった。




 洋食店YANAGIは、住宅街の中にぽつんとたたずんでいた。


「邪魔するぞ」


 店のほうの入口が開いていたので、そっちから入る。


「誰もいませんけど」

「定休日だからな」


 厨房から、金髪の気だるげな兄ちゃんが出てきた。


「来たか」

「わざわざ、すまんな」

「おまえが頼みごとなんて、珍しいからな」


 そう言って、煙草をふかせる。


「店で吸っていいのか?」

「禁煙は昼だけ」

「まあ、おまえの店だからいいけどな」


 金髪の男が、岬を見た。


「は、初めまして。山田先輩の同僚で……」

「…………」


 たっぷりと煙をふかしてから。


「きみ、今日のパンツ何色?」


 岬の髪の毛が逆立ったような気がした。


「な、なな、なんですか、このひと!?」

「おい、おれのうしろに隠れるな」

「だって、先輩! いきなりひとのパンツの色とか……!」

「おまえ、いつも報告してくるだろ」

「先輩だけですよ! もう、普通ありえませんから!」


 基準がよくわからんな。


「こいつが友人の柳原だ」

「どーも」


 相変わらず、なにを考えているのかわからない。


「今日は料理の相談をしに来た」

「料理の?」

「日曜日に、ジャガイモの収穫をするだろ。ついでに、こいつに飯の試作をしてもらおうと思ってな」

「ああ、なるほど」


 柳原が、奥の厨房に入るように促した。

 すでに準備は整っているようだ。


「ジャガイモだっけ?」

「ああ。かなり大量にできるぞ」

「調理設備は?」

「そうだな。この前、行ったときは、湯を沸かす鍋くらいしかなかった」

「せめてフライパンとか持ってけよ」

「土曜に運んでおく」


 調理台に段ボールを乗せる。

 大量のジャガイモを取り出すと、ざるに水をためた。


「じゃあ、やろーか」

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