第105話 ルーレットを回すぞ


 人生ゲームの基本的な流れ。

 バージョンごとに微妙に違うが、だいたいはこうだ。


『幼少時代』

 ↓

『学生時代』

 ↓

『社会人時代』

 ↓

『隠居時代』


 まずは全員、子ども時代を経験する。

 同じ病院で生まれた『サチ』と3人の『やまだ』。

 それぞれが親の元に引き取られ、同じコマからスタートする。


 まずは『サチ』だ。

 ルーレットを回すぞ。


 くるくるくるくる……3!


 車に乗ったサチベイビーが、マスを進んでいくぞ。

 ……ほら、両親が運転してるからな、うん。


 そして止まったマスで、お題が提示される。


『今日はお祖父ちゃんの家に遊びに来たよ。


 ほ~ら、いないいない、ばあ!

 

 サチはどうする?


 ▶笑う

  笑わない 』


 乳児に「どうする?」と聞いてきたぞ。

 子どものころは疑問を感じなかったけど、大人になって見ると違和感が半端じゃないな!


「神さま! いないいないばあってなんですか!?」

「そうだなあ。これをすると、子どもが笑ってくれる遊びだ」

「ふむふむ。全然わかりません!」


 そうだよなあ。

 まあ、おれだって改めて言葉で説明するのは難しい。

 岬がいれば、うまいこと説明してくれたのかもしれんなあ。


「まあ、どっちでもいいんじゃないか?」

「わかりました!」


 果たして、サチの返答は!?


『▶笑う』


 ちゃっちゃら~ん


『お祖父ちゃんは大喜び!

 お小遣いをもらったよ!』


 ちゃりーん。

 サチの所持金が『1000円』増えたぞ。


「なるほど。こういう遊びか」

「こちらの世界の文化に馴染んでいると、より楽しい作りのようですね」


 クレオとメリルは納得したようだ。


「まあ、こういう感じで進めていけば……」


 おや。

 画面が変わらないぞ。


 バグったか。

 もう古いし、いつ壊れてもおかしくは……いや、待て。


 なんか『サチ』の両親が、アップで表示されたぞ。

 悪い笑顔で、なんか言ってる。


『げっへっへ。やっぱり孫の笑顔は、ジジババの財布のヒモを緩くするなあ』


 やめなさい。

 純情な気持ちを弄ぶんじゃないよ。

 ていうか、こんなテキストあったっけ?


「神さま! サチはお父さんとお母さんのお役に立ちました!」

「お、おう。サチがそれでいいなら、いいんだが……」


 ふんすふんすと息巻いている。

 うちのケモミミ嬢ちゃんが純情すぎて、なんかいい雰囲気になってしまった。


「次はおれだ!」


 次は『甥やまだ』だ。

 ルーレットじゃがじゃがじゃが……5!


『母親の浮気が発覚!?

 しかも、妊娠時期と重なってるよ!


 この子は、おれの子ではないのか・・・?


 ▶全力で父親似の顔をする

  全力で母親似の顔をする 』


 なんか出題えぐくないか?

 おれの気のせい?

 こんなだったっけ?


「これだ!」


『▶全力で母親似の顔をする』


 ちゃっちゃら~


『離婚戦争が勃発!

 母親に引き取られたけど、浮気相手がIT企業の社長だったからお金持ちだ!』


 なんでだよ。

 むしろ離婚するためにバラした可能性すら見えてきたぞ。


「ふうむ。なかなか意外性があっていいな」

「子供用の遊戯とは思えない濃厚な人間ドラマですね」

「サチもそう思います! ふんすふんす!」


 なぜか異世界出身勢には好評だ。

 もしかして、違和感を覚えているおれがおかしいのだろうか。


 とにかく『甥やまだ』に、『3000円』が追加!


「よーし。俄然楽しくなってきたぞ!」


 次は『クレやまだ』の番だ。

 ルーレット、オン!


『今日はお祖父ちゃんの家に遊びに来たよ。


 ほ~ら、いないいない、ばあ!』


 ほほう。

 さっきのサチと同じやつだ。


 クレオがにやにや笑っている。

 勝利を確信しているようだ。


「読めたぞ。このゲーム、後攻のほうが有利と見た! 同じ問題を、間違うわけなかろう!」


 クレオが余裕のよっちゃんって感じで、『▶笑う』をチョイス!

 お祖父ちゃんがニコニコと笑顔で……あれ?


『……笑顔がわざとらしい。可愛くないのう。ケッ』


 ちゃっちゃら~

 『クレやまだ』は『5000円』を失った!


「なぜだああああ!?」


 ……なんでだろうなあ。

 しかも、奪われる額がえげつない。

 まさかの一投目で、借金モードになってしまった。


「なるほど、なるほど。同じ問題でも、違う結果になる可能性もあるのですか」


 冷静に分析しながら、『メリやまだ』がルーレットオン!


『今日は定期検診。

 怖いよ~ドキドキ!』


 一転して平和だなあ。

 しかし、定期検診なんてテキストも記憶にないな。


『あ、あの子は!』


 うん?

 なんか黒髪の女の子ベイビーが出てきたぞ。


『なんと、奇跡的に同じ分娩室出身だった!

 定期検診の待ち時間に意気投合!

 可愛い女の子とお友だちになったぞ!』


 同じ分娩室出身ってなんだよ。

 確かに奇跡かもしれないが、字面は微妙すぎるぞ。


『一目見たとき、ピーンときたね。

 あ、おれ、こいつと結婚するんだって……』


 んんん?

 なんかポエム始まったけど……。


『ぱんぱかぱ~ん!

 やまだは伴侶を得た! 』


 なんでだ。

 まだ乳児だぞ。

 あ、結婚式はじまった。


『永遠の愛を誓いますか?


 ばぶう!

 ばぶう!


 神の名の下に、新たな家族が誕生しました』


 ばぶう!じゃないぞ!

 双方の親御さんはなにをしているんだ。


『ご祝儀で、100万円をもらった!』


 あ、ちゃっかりしてる。

 これはとんでもないアドバンテージになってしまった。


 ……んん?


『しかし、事前の説明よりも結婚式に費用がかかってしまった

 奮発して頼んだ神戸牛のステーキのせいだ

 遠縁の親族も、お高いスパークリングワインばかり飲んでいる


 費用として、99万円を失った!』


 世知辛い。

 薄々勘づいてたけど、このゲーム異様に世知辛いぞ。


 ……まあ、それでも1万円は上乗せか。

 アドバンテージには変わりない。


『新婚旅行マップにいきますか?』


 どんどん進んでいる。

 こんなシナリオは絶対になかったはずだが……。


 んん?

 メリルが、こっちを見ている。


「山田さま。いかがしますか?」

「なんでおれに聞くんだ?」

「うふふ。二人のことは二人で決めるのが当然ではございませんか」


 このお嬢さん楽しそうだぞ。

 あ、なんかみんながじーっと見ている。


「山田どの。……メリルを頼む」


 クレオよ。

 涙ながらに送り出してるんじゃないぞ。


「神さま! サチは丘の上の白い一戸建てがいいです!!」


 あ、サチはついてくる気まんまんだぞ。

 下手したら、子ども席に座ってしまいそうな勢いだ。


「やまだにとられた! おれのおっぱいとられた!!」


 甥っ子うるさいよ。

 おまえのでもないから黙ってなさい。


「……ううん。こんなゲームだったっけ?」


 なんか変な気がするんだけど。

 まあ、別にいいか。



現在の順位

 1位:メリやまだ 1万3000円

 2位:甥やまだ    6000円

 3位:サチ      4000円

 4位:クレやまだ  ー2000円





※※七菜です!※※

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