未来王の帰還編

第97話 GWもしっかり遊ぶぞ!


 四月も終盤に差しかかる。

 新卒たちの人柄もだいたい伝わるものだ。

 うちの新人教育は岬が担当だし、そつなくこなしてくれるだろう。


 すると話題に上るのはコレだ。


「山田さ。GWはどうすんの?」


 喫煙所での煙草休憩中だった。

 水戸部の言葉に、おれは深く悩んだ。


「ううむ……」

「いや、そんな真剣な質問じゃないんだけど……」


 そうか。

 まあ、そうだな。


「去年は何してたか……」

「おまえは実家に顔を出すって言ってた」

「ああ、そうだ。甥っ子と遊んだぞ」

「あとは寝てたそうだ」

「そうだ。寝てたな」


 正しくは筋肉痛で動けなかった。

 子どもの無尽蔵のパワーに負けた。


 そういえばサチたちと遊ぶようになって、実家に顔を出していないなあ。


「一日は顔を出すか」

「休みは何日?」

「土日合わせて、五日だな」

「有給取らないのか?」

「何が起こるかわからないからな」


 また突然、向こうの世界に連泊する可能性があるからな。

 今期の分は、そのために温存しておこうと思う。


「仕事の整理して、休み明けにすぐ動けるようにしておくよ」

「山田、変わったよなあ。前はのんきなもんだったのに」

「いろいろあったんだよ」


 ということで、GWの休みは五日間だ。


 一日は実家に顔を出す。

 それ以外は特に予定もない。

 あ、一日はチョコアイスとデートの約束だったな。


 ……大丈夫なのだろうか。

 なんかイトナたちは大丈夫って言ってたんだけど。


 自由時間が三日間。

 うまく岬と予定を合わせて、山田村で遊ぶ予定を立てよう。


「さて、その前に溜まってる仕事を片さなきゃな」

「はあ~。休むための準備が大変だなあ」



 ***



 そして仕事帰り。

 今日は山田村で晩ご飯をご馳走になった。


「神さま。どうぞ!」

『どうぞ――――!!』


 サチ軍団に囲まれて、ナス料理の試食会だ。

 どうやら、今日は子どもたちで料理に挑戦したらしい。


「子どもたちが料理とは珍しいな」

「この前の収穫祭で、興味を持ったらしいんですよ」


 イトナがお茶を注いでくれた。

 情操教育の手助けになったなら、やったかいがあったな。


「神さま、早く早く!」


 ぐいぐい引っ張られる。

 もう感想がほしくてしょうがない感じだ。


「では、さっそく……」


 ナスのキーマカレーだ。

 子どもたちが切ったので、もはやお野菜ごろごろカレーだった。


 もぐもぐ。

 うまい。


「うまい」

「やりましたー!」


 わあっと胴上げが始まる。

 騎士団連中の文化が、子どもたちに伝わっている。


「このカレールーは?」

「巫女さまにいただいたものを」


 ボ○カレーだった。

 どおりで懐かしい味だと思った。


「そういえば、今度、ちょっと長めの休みがあるんだ」

「あら。そうなのですか?」

「空いてるのは三連休だけどな。岬の予定がついたら、なにかしたいと思ってるんだが……」


 イトナが考えた。

 そしてパンと手を叩く。


「あ、そうです」

「なにかあるか?」

「ええ。先日、クレオさまが『ケ・スロー』へ帰ると仰っていました」


 初耳だった。

 ケ・スローは、クレオたちの騎士団の本拠地だ。


「な、なにかあったのか? あ、もしかして、やっぱり税金とか払わなかったのがダメだったのか?」


 この村の居心地が悪くなったのだろうか。

 彼女たちに帰られたら困ってしまうぞ。


「いえいえ。そういうことではなく」


 苦笑されてしまった。


「兄上さまが国境警備の任務から帰られるということで、お顔を見せに戻るそうです。もしよかったら、わたくしどもを招待してくださると……」

「ああ、そういうことか」


 よかった。

 せっかく仲よくなれたのに、これでお別れは寂しすぎる。


「しかし、ケ・スローか」


 一度だけ行ったことがある。

 帝国の兵隊が攻めてきたあと、その功労賞授与式にお呼ばれしたのだ。


 あのときは日帰りみたいな日程だったから、屋敷の外を散策する時間はなかった。

 もし招待してもらえるなら、今度は街の様子も見てみたい。


「ぜひ行ってみたいな」

「はい。それでは明日にでも、クレオさまにその旨をお伝えしておきます」


 思いがけず、楽しいイベントが入りそうだ。


「サチよ。GWもしっかり遊ぶぞ!」

「はい。遊びます!」


 ふっふっふーと、サチと一緒に悪い感じで笑っていた。

 まさか、あんなことになるとは思いもせずに。



 ***



 GWの鉄則。

 まず予定通りには進まない。


 そのことを、おれたちは子どものころから身に染みているはずだった。


「……先輩。拗ねないでくださいよ」

「別に拗ねてないし」


 クレオの里帰りについていこう計画。

 それがまず破綻した。


 いや、日程はうまいこと合わせることができた。


 ちょうど里帰りの日程が、おれたちのGWの後半に被った。

 そして岬のほうも、無事に都合がついた。


 しかし、まさかの問題が勃発した。


 山田村の責任者が不在になってしまうのだ。


 村長の代理ができる人が、ことごとく里帰りに同行する。


 副村長のカガミ。

 前回の戦争の勲功で、ケ・スローの名誉騎士を賜っている。

 つまりカガミも、クレオのお兄ちゃんに顔を見せに行かなければいけない。


 そしてダリウス老。

 もともとクレオのお目付役なので、同行しないと怒られてしまうそうだ。

 騎士団の他の幹部たちも同様らしい。


 たった三日間じゃないか。

 おれは必死に反論した。

 しかし、ダメだと言われてしまった。


 たった三日間。

 されど三日間。


 その間に、盗賊がやってきたらどうする?

 その間に、モンスターが暴れたらどうする?


 おれは、沈黙せざるを得なかった。


 今回ばかりは、誰も助けてくれなかった。

 いつも甘々なのに、こういうときは厳しい。

 まあ、命がかかっているのだから当然だ。


「先輩。元気出してくださいよ」

「そうだな、岬よ。一緒にお留守番しよう」

「わたしはケ・スロー行きますけど」

「ちくしょう!!」


 すごく行きたかった。

 すごく行きたかった!!


「神さま。元気を出してください!」

「サチは、おれに優しいもんな?」

「はい。サチがお土産を買ってきます!」

「……ありがとう」


 サチも一緒にお留守番してくれるとは言わなかった。

 みんな久しぶりの遠出にウキウキだった。


 まあ、行けないものは仕方がない。

 この際、久しぶりに山田村の掃除でもしていよう。

 あるいは、残った騎士団の連中とサッカーでもしていようか。


 そんなことを考えているうちにGWがやってきた。

 まずは、チョコアイスとのデートだな。

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