第3話 選ばれちゃったのだろうか
畳のほうは完了。
あとは寸法を測って、申し込みのメールをするだけ。
畳下板は自分でなんとかしろと言われた。
寸法を測って、適当な板を買いに行けばいいらしい。
おまけしてくれたっていいだろうに。
あとは、害獣駆除か。
でも、こればかりは勝手にやるわけにもいかない。
他の入居者もかかわることだし、まずは大家さんに連絡してからにするか。
ついでに、あの謎ミニチュアのことも聞きたい。
「……でないな」
大家さんも会社員らしいし、折り返しを待つか。
昼飯はチェーンの牛丼屋で済ませた。
会社に戻る途中、電話が鳴った。
『害獣ねえ』
大家さんの声は渋かった。
そりゃそうだ。
下手したら、アパートすべてを調べることになるだろう。
『どんなのか見たの?』
「いえ、穴があっただけです」
『じゃあ、なにかいるって決まったわけじゃないんでしょ?』
「ええ、まあ……」
あれ?
なんか、話が妙な方向へ。
『帰りにホームセンターで害獣駆除のやつ買って、置いておいてくれない?』
「えええ!?」
さすがにそれは適当すぎだろ。
『それでいなくなればいいでしょ』
「おれがするんですか?」
『家賃、今月は半分でいいから』
「え、マジですか?」
つい、そんな甘言に食いついてしまう。
『それで、なにか出たら、また連絡してよ』
「まあ、わかりました」
そういうことで、自分で処理することになってしまった。
あ、ミニチュアのこと聞くの忘れてた。
会社を出たのは、午後七時ごろだった。
ちょうど、外から戻った岬と出くわした。
「あ、先輩。まだいらっしゃったんですね」
「もう帰ったんじゃなかったか?」
「携帯、見ませんでした?」
携帯を見ると、岬からメッセージが入っていた。
『会社の近くのいのうえ水産で飲んでます。先輩もご一緒にどうですか?』
もう一時間くらい前のことだ。
「悪い、見てなかった」
「ああ、やっぱり。そうじゃないかと思って」
「わざわざ呼びに来たのか?」
「え、ええ。まあ……」
なぜか、少し照れたようにはにかむ。
お酒のせいで、ちょっと頬が赤い。
「行きませんか? 佐藤さんたち、待ってます、よ?」
上目遣いに、そう言う。
確かに腹も減ったし、行きたいのは山々だが……。
「すまん。今日は予定がある」
「あ、そうなんですか?」
「ああ、ちょっと火急の用事でな」
すると、少し拗ねたように。
「先輩のブラ、見たかったのに」
「おい。それまさか、他のやつに言ってないだろうな」
冗談ですよ、と彼女は笑った。
さすがにあんな冗談、岬にしか言わないのだ。
居酒屋の前まで岬を送って、そこで別れた。
駅前のホームセンターで、害獣駆除のアイテムを物色する。
だいたい超音波か。
でも、今回は家の中だからな。
キーンってのが気になって眠れないのは嫌だ。
お、こっちに粒剤タイプがあるか。
それを一つ、……一つで大丈夫か?
あと、防御用の小型の熊手を購入。
これでモグラくらいなら恐くないぞ。
……蛇とかだったら、やばいな。
やっぱり、大家さんにやってもらったほうがいいだろうか。
まあ、引き受けてしまったらしょうがない。
畳下板も敷いてるし、重石になるものをのせておけばいいだろうか。
害獣駆除の粒剤、熊手、蛇よけ剤。
買ったあとに気づいたけど、害獣駆除の粒剤に蛇も含まれている。
まあ、より効果が期待できると思っておこう。
こうして完全武装したおれは、アパートに帰った。
そして戦慄した。
畳下板が、完全に腐って落ちていたのだ。
いったい、どうなっているんだ?
やっぱり、変なことに巻き込まれているのだろうか。
国によって秘匿された殺人兵器のモルモットに選ばれちゃったのだろうか。
実家の母さんに、孫の顔、見せられなかったなあ。
まあ、孫の前に嫁すら雲をつかむようなものだ。
そんなことを考えながら、腐った板をビニール袋に詰める。
この匂い、ちょっとまだ慣れない。
ふと、ガラスのドームに目を落とした。
……ちっちゃい人間がいた。
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