第6話 人間っておもしろい

 妖怪が好きである。


 もともとは別に興味もなかった。

 私が本好きになったきっかけは小学4年生、ひまでひまで仕方なく、かといって姉の持っていた『ドラえもん』、『こどものおもちゃ』、『水色時代』、『ママレードボーイ』、『姫ちゃんのリボン』、『天使なんかじゃない』といった漫画はすでに何度も読み返していて、手を付ける気になれなかったのである。


 そこで手を出したのが『大きな森の小さな家』。

 『大草原の小さな家』の前作であるが、有名なほうは読んでいない。『森』を読み、読書にすっかりはまってしまったのだ。それも「海外文学」に大きく舵を切って。


 この流れで私は当時流行りの『ハリポタ』に食らいつき、ダレン・シャンやアレックス・シアラー、バーティミアスシリーズにずるずるとはまりこんでいった。

 ファンタジー最高!

 こうして私の素地ができあがったのである。


 そんな私が小説のテーマに選ぶのは、常に魔法だった。


 しかし、選ばれし者とか、剣や戦いには興味がなかった。

 だって少女漫画とドラえもんで育ったんだもの。

 魔女とかゴーストが出てきてわーきゃーしている作品を書ければ楽しかった。しかし、あるとき言われた。「妖怪とか書いてみれば?」って。


 言われたアドバイスはとりあえず試してみるのが私の長所でございます。


 子ども主人公にしてみたら?

 学園もの書いてみたら?

 ちゃんとした組織に勤めてみたら?


 全部やりました!

 ええ、やりましたとも!

 派遣社員になったときは半年で鬱になりかけてあわてて辞めましたけどね!


 そして妖怪もまた、例外ではない。とりあえず妖怪について調べてみた。はじめは欠けらも興味なかったのに、出会ってしまったのだ、そう『柳田國男』に。


 民俗学と言えば! のあの人。

 彼の著作を全部読みました、なんて見え透いたうそは言わない。だって大正時代の文語体でつらぬいてらっしゃいますからね。頭悪いんで、そういうのちょっと読破できない。だから彼が出てくる漫画とかを読んでみた。大塚英志さんの『松岡邦夫妖怪退治』はオススメである。私が読むのは少女漫画だけではないのよ。へへん。


 妖怪が好きって言うと、たいてい「おや、天狗とか河童かい? それともゲゲゲの鬼太郎かい?」とのんきな質問が返ってきがちである。

 いや、水木しげる氏は素晴らしいお方に間違いはない。でもそうじゃない。私が面白さを感じるのは妖怪そのものではなく、妖怪を作りだした人間、環境、風習。つまり民俗学なのだ。


 たとえばこんな民話があったとする。

 ――天狗が来て、子どもをさらってった。

 はい、「天狗さらい」だね。「神隠し」と同じあれ。


 当たり前だが、本当に天狗にさらわれたわけじゃない。

 現代でもときどき起こる子どもの誘拐事件か、もしくは事故や行方不明だろう。

 そういったものの現実を、大人たちはちゃんとわかっていた。しかし、子どもにはどうも真実を伝えずらい。あるいは幼すぎて、言ったとしても理解が及ばない。そういうときに、大人たちはどうするか。「物語化」してしまうのだ。わかりやすいイメージや簡略化した擬人化で、すんなり納得できるように。赤ちゃんはコウノトリが運んで来るんだよ、みたいなあのノリで。


 まあ、理由は子どもに話すためだけではない。「猿に娘を奪われた」という話が残っているなら、「『猿』と馬鹿にしていた身分の低い男が娘と駆け落ちしやがった」という物語が隠れひそんでいるものなのだ。


 私が面白がっているのは、そういうところ。

 たぶん妖怪なんかいやしない。

 でも、そういうものが生まれた背景を考えるのって、面白くありません?

 なんつーか、人間って面白いなー、って。

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