第29話 ピクサーの社員になる予定だった
あれは中学生のころか、高校生のころか。
今となってはぼやけた思い出だが、ピクサーに入るのが夢だった。
読売新聞の夕刊を読むのが一日の楽しみだった私。あの『トイストーリー』や『モンスターズインク』を制作した会社、ピクサーの特集記事が毎週のように組まれており、それを読みながら「なんて楽しそうな職場なんだ!」と感動し、当時ピクサー社の中ではたった一人しかいない日本人の女性に憧れ、日本人第二号になってやろう! と本気で思っていたんである。
が、それを言ったら、育ての父に大笑いされた。
「へー、そうなのー。ピクサーにぃ? がんばってーwww」
彼の名誉のために言い添えよう。いくら継父だからといって、シンデレラやヘンゼルとグレーテルの継母のように、意地悪だったり子どもを憎んでいたような人間ではない。むしろめちゃくちゃいい人で、他人とは思えないほど踏み込んで私や姉を育てあげ、実の父よりも身内らしい関係性を築いている。
ゆえに、身内のさがである憎たらしさもそのまま持っているのである。
ああむかつく。
というわけで、私はその「わりと真剣だったのに一笑に付された事件」によってピクサー社員になる夢をぽっきりと折られてしまった。あのまま目指していれば、せめて今ごろアニメ産業には身を置いていたのかもしれないのに。もしくはアメリカに移り住んでいたかもしれないのに。
ま、面倒くさがりな私には、どちらもおそろしくめんどくさそうな人生である。
だから、まあ、いっか。
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