第81話 にこやかな人って怖いよね? 怖いよ
その電話を受け取ったのは9月の末ごろだったと思う。なんだかいやに堅苦しい「みりあむ様のお電話でお間違いないですか?」に始まり、いやだなあ、なんか営業の電話かなあ、無視してあとで番号検索すりゃよかったかなあ、と後悔していると、住んでいるアパートの名を告げられ、あの言葉をささやかれたのだ。
「老朽化のため、取り壊しを行いますので、六ヶ月以内にご退去をお願いします」
えー……。
やだあ……、
私これ二回目なんですけど?
古い建物を好む人間の宿命なのであろうか。
それともお風呂大好き人間にとって欠かせない追い焚き機能のついたバランス釜が顕在しているアパートは自然古い建築物になってしまう故であろうか。
めちゃめちゃ気に入っていてしばらく住み着こうと思っていた拠点だけに、管理会社からの電話を切ったあとは軽く泣いたよね。あれ私の居場所ってここじゃなかったのかな? 的な少女漫画的な悲しみおちいるよね。悲しす。
できるだけ今のアパートに住み着きたいけどギリギリまで住める期限は3月いっぱい。つまり不動産業界においてもっとも繁忙期であり、大家さんが図に乗って家賃を引き上げる時期に重なる。ぐえ。これは避けたい。
ということで1月のうちに行ってきました内見。
インターネット社会は私にSNSの歓びを与えてくれたけれど同時に選択肢を無限に与えて苦しみも覚えさせてしまったね。アパートを検索しては落ち込む日々。
え? せまくね? 外国人が日本の賃貸住宅を「ウサギ小屋」と揶揄するのまじ正解なんですけど? 玄関入ってすぐ廊下&台所とかいやなんですけど? 食器棚置きたいんですけど??
お家でちまちま検索していると精神衛生上良くないのでわりと良さそうなお家を発見して即問い合わせ。良い条件の家なので急ぐが勝ち。最寄り駅で不動産屋さんと待ち合わせすると、会って二秒で言われた。
「今日の物件、問い合わせは多いんですが、実際内見すると『うーん』って方が多くて……」
はあ、まあなんかそんな気はしてましたけどね? 写真めっちゃ白飛んでましたもんね。フォトショの力! ってかんじでしたもんね?
「まったくだれが写真撮ったんだかってかんじで……」
そう思ってるんなら撮り直せば?
とは言わずににこにこしながら車に乗って連れて行かれた。うわー、写真からは想像だにできないボロ屋。
「こちらですー」
うわー、写真からは想像だにできない暗さ。
おそらく広さや風呂トイレ別などの条件は申し分ない。立地も環境もカンペキ。けれども日が差さない。暗い。ボロい。しかも洗濯機置場がない(廊下にさえ!)
「今日時間ありますか?」
「ないんですよ」
にっこり笑ってその場をあとにするわたくし。
申し訳ないけど、この人とこれ以上内見はできないわ……だって運転下手すぎるんだもの……ちょっと乗ってただけで酔うんだもの……ブレーキ頻繁に踏まないでぇ。
結局三日後にネットで見つけた物件を次の日に見に行き、即決。
今度の不動産屋さんは車の運転上手でよかった。営業うますぎて軽く引いたけど。
というわけで引越し先をロックオンした私はおおいに気が大きくなっています。
今回は駅チカだし追い焚きあるし文句はないわっ!
でも、今の家も気に入っているの。
ギリギリまでよろしくちゃん。
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