第44話 講演会には間に合った
人間は自分の評価を「平均より少し上」だと思いがち(客観的な事実に関係なく)と、脳科学の本に書いてありました。
つまり口に出しては言わないけど、みんな「自分はわりと賢い」と思っている。
これは昨日の話でございます。
大好きな翻訳家の先生の講演? があったんで、ウキウキしながら支度して出かけました。
駅まで歩いて10分ちょい。自転車はしばらく使っておらず放置されすぎてタイヤはすかすか。名前までつけてかわいがっていたのにすっかり歩くのが身についてしまい、倦怠期ならぬ破局状態です。
さて駅の改札前で私はある重大な事実に気がつきました。
財布を忘れた……!
はい、まぁね、こんなときもありますよ。翻訳家の先生とは作品の出来を見てもらうくらいの仲なので、お借りしていた本を忘れないようにそればっか考えていた結果がこれだよ。
仕方がないので歩いて家まで帰りました。ま、余裕もって出たので30分くらいのロスはなんてことないです。歩くの好きだし。
で、家に帰って財布の中身チェックして、あとついでに暑くなってきたのでタイツ履き替えてさあ講演会だ、と思ったとこで足が止まりました。
あれ……?
カギ、どこ行った?
いやいやおかしい。
だって今さっき家に入るためにカギ使ったよね? あれどっか持ってっちゃったっけ?
探しました。お金置いてある引き出しからタイツ入れてる押し入れから歩いた動線までくまなく。それからいつも家に入るなりカギをポンと置く靴箱の上、入っていないはずのトイレ、刺さったままであることを考慮してドアの外側も見ました。
ない。
え?
やばくね?
サーっと寒気が走り、なんで、なんで、と呟く妖怪に変貌。
え、刺さったまま、タイツ履き替えてるあいだに誰かが来て抜き取ったの? そんなことある? このボロアパート、階段の登り降りでめちゃくちゃ気配がするのに? つうか閑静な住宅街の突き当たりで、周りおばあちゃんか引きこもりがちな息子のいる一家しかいないのに?
恐ろしい想像とご近所さんへの疑惑。しかしとにかく家を出なくてはならない。そろそろタイムリミット、しかしカギがない。
とにかく家に置いてある所持金と預金通帳だけ持って家を出ることに。あとで警察か不動産屋さんに電話するにしろ、今は先生に本を返すほうが私の優先順位は高いのだ!
と、靴を履いて目をあげたとき、いつもカギを引っかけてるところにカギがぶら下がっているのを見た。
……あったわ。
人間は、自分で思っているほど賢くはないのかもしれない。
そんな教訓。
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