第25話 生みの親より育ての親

 ママが名字を変えたらしい。

 なんだかうれしそうに報告してきた。


 夫婦別姓が認められない最高裁の決定が下ったのは2年ちょい前の話。その前から民主党やらなんやらが「夫婦別姓をみとめろー!」と活動していた気がする。女子高生のときに友達と話した記憶もある。友達のほとんどが「夫婦は同性のほうがいいだろ!」と、わりと保守的なのが印象的だった。なぜそんな上から目線なのかというと、我が家は「夫婦別姓」どころか「家族別姓」だったのである。


 ママは一度離婚して再婚している。私には父がふたり。実の父と育ての父だ。

 昔は親が離婚すると、離ればなれになった親や兄妹と会えなくなる家庭も多かったらしい。ところがどっこいママは外国人なので、「そういうのマジありえない」という意見である。


 ママが離婚するとき、まあいろいろあって家庭裁判でこちらが有利だったので、弁護士さんが「子どもと父親を会えないようにできます」と言ったらしい。でも、ママはそれを断わった。「そんなのお互い可哀想じゃん!」というのである。


 ママのお国では、子どものいる夫婦が離婚すると、どちらの家にも行き来できるよう、親は同じ学区内に住まないといけないそうだ。すげー。離婚率が高かったからこそ、こういう制度もちゃんと整備されているんだろうことを考えると、あっちの国のほうが日本よりいいな、とは一概に言えないけれど。


 とにかくそんなわけで、子どものころからしょっちゅう2時間半かけて実の父に会いに行き来していた。ママの「ザ・外国人姓!!」を名乗らず、前の名字を使い続けた。ママが再婚したときも、姉が超反抗期だったので、触らぬ神に祟りなしということで、養子縁組には入らず、名字はそのまま。そしてなんと、国際結婚の場合、合法的に夫婦別姓で通せるのだ。これ、メディアではスルーされてる。


 おわかりいただけただろうか……? ひとつ屋根の下に、三つの名字が共同生活を営むこととなったのである。ママの名字と、再婚相手の名字と、前の父の名字。だけど表札は再婚相手の名字一択。いや、そこは三つ書けよ。


 姉の友人が年賀状配達のバイトをしたとき「あの家は名字三つあるから気をつけて!」と注意されたらしい。笑える。


 そういうわけで、私は夫婦別姓には、わりと賛成。家族の絆が揺らぐ! とかよく言うけど、杞憂です。なんとかなります。育ての父とめっちゃ仲良しです。


 とはいえ、ママはこのたび姓を変えて、日本人名になったそうだ。ほんとは帰化もしたかったみたいだけど、手続きがめんどうくさすぎてやめたらしい。


 ま、しょせん紙切れの上での話だからね。

 なんでもいいさ。

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