第159話 入院した話
前回のあらすじ:金曜の夜、緊急手術をしてお腹に四か所穴を開けられた!
腹腔鏡手術というのをご存知だろうか。
お腹に穴を開けて二酸化炭素でふくらませ、カメラを入れて手術する方法である。一本の長い切り傷を入れて開腹するよりも患者への負担が少なく、最近ではけっこう主流になってきている。私はこの手術をされた。
朝起きて、入院する部屋をベッドごとガラガラと移動させられ、ナースステーションから遠く離れた静かな場所に運ばれた私。
点滴やらおむつ(子宮あたりの手術だったので、生理でなくとも血が出てしまうのだ)やらタイツやらつけられ、顔を上げてお腹の傷を見ることさえままならない。寝返りは打てるけど、なんかプラスチックの容器があって邪魔。しかもどうやら私のお腹とチューブでつながっているし。なんぞこれ。
あとから知ったが、これはドレーンと呼ばれる医療物品のひとつだった。
お腹の中にたまった悪いものを排出するためのものである。
これが左側の穴にずーっと突き刺さっていた。三日くらい。
ぶっちゃけ手術したあとって痛み止めとか抗生物質とか摂りつづけてるし、意識ははっきりしているので頭は元気なのだ。だが、とにかくこのドレーンが痛い。だって傷口に! 刺さってるんだよ? 管が! 肉の断面に!
ちょっと動こうもんなら、ベッドをリクライニングさせようもんなら、トイレに行くため靴をはこうと身をかがめるもんなら、お腹の傷にこれがさわる。手術翌日、昼食を許されておかゆをもさもさ食べながら、私は何度も箸を止めた。
お腹がふくらんでくると、痛い。
穴に刺さった管が傷口を圧迫する。いてえ。だけどもったいない精神が勝ってしまう。私の中の給食のおばちゃんが「お残しは許しまへんで」とささやいてくる。食べる。痛い。
処方された痛み止めを飲み、一日何回も体温と血圧を測られ、ふだんよりも上がりましたか下がりましたかときかれたってふだんの血圧なんか把握してない。
それでも母や姉がお見舞いに来てくれるとほっとする。
まだ医療現場ではコロナ禍がつづいていて、談話室みたいなところは閉鎖されて使えないし、四人部屋の同室者は全員カーテンをひいていてお友だちなんかできやしない。お見舞いは週に一、二回まで、二等親の家族のみ、ふたりまで、十五分間と決められている。あはは。囚人みたーい☆
いちばん仲の良い姉、二年前に入院していたのでさすがに手際がよかった。
私は姉の所望するままに保険証やマイナカードを渡した。そして姉は月曜になるとわざわざ私の住んでいる市役所まで出かけて行っていろいろ手続きをすませ、高額医療費制度なるものに登録してきてくれた。
説明しよう!
日本は国民皆保険なので、現役世代の医療費は三割負担ですんでいる!
しかしときには医療費がめっちゃかかる! あとで明細もらったが、手術代だけで38万5千円、全身麻酔に14万2千円! これの三割ってけっこうきつい!
だが、ここでちゃんと申請すれば(年収にもよるが)月にかかった医療費が5万円以下ですむのだ! あとは国がなんとかしてくれる! やったあ!
いやほんと、はじめて日本、やるじゃんって思いましたわ。よかったー。お金、めっちゃ気を揉んでたもん。それに月の二週目に入院したのも助かった。もしこれが月またいでたら、倍の値段払わなきゃならなかったのでね。
あ、ちなみに食事代とかは別途料金だから、もう少し払いましたけどね。
生命保険なんか意味ないよ、という頭のいい人の意見を見たことがあったけど、なるほどこういう理由でしたか。ちなみに退院したあとお世話になってた人に「あんたちゃんと保険料払ってたでしょうね?!」って心配されたけど私をなんだと思ってるんですか? 趣味貯金の私を? 見た目と言動のせいでいつもお金の心配をされるんですが、私そういうのはけっこうちゃんとしてますことよ??
貯金があるから全額負担でもべつに払えるっちゃ払えるけど、趣味貯金なのでなるべく払いたくないってのが人情です。みんなも福祉には甘えよう☆
入院すると、テレビカードなるものを購入でき、テレビを見たり洗濯機を使うことができます。私はもちろん、これでWi-Fi三日券を購入!
お腹が痛くなって視聴できないでいた、Youtubeの気になる動画を数日ぶりに見ることができました。うう……うれしい……トイレから戻ったら見るつもりだった動画を、まさか病院のベッドで見ることになるとは……感無量!
手術をしたのは金曜だったので、土日は放置されていた私。月曜になると主治医の先生が「体調いかがですか」と訊ねてきてくれた。
むしろ手術後は放置がスタンダードなんかなとか思っていたのでびっくりした。手厚い。ありがとうございます。
お腹に刺さっているドレーンが痛いこと以外は楽しい入院生活を送っていた私。なるべく歩けと言われていたので廊下を歩くたびにマスクを忘れたり別棟を歩いて「ここを歩くな」と言われたり、泣きそうになっていましたがドレーンが痛いこと以外は気に病むこともありませんでした。ほんとドレーン。まじドレーン。
これを抜くから処置室に来いと言われたときは、うれしい反面、こわかった。
私の主治医は若い先生と指導役の先生のふたり。処置室に寝かされ、テープを剥がしてドレーンを抜くことになった。先生ふたりと看護師さんの三人がかりでかりかりと絆創膏を剥がされる。「なかなか取れないね」とか言ってるので「三つ目がとおるみたいですね」と言ってみるがだれにも通じなくて涙目になる。
そして抜く瞬間が来た。忌々しいドレーンを。
看護師さんが手握ってくれてさあ、おなじように息しろって感じで「すーっ、はーっ」ってやってくれてさあ、まあここまでは良かったんだよ。おっ、なんか大丈夫そうだなって思ったのよ。したら急に看護師さんが「はーーっ!!!!」と息を吐き出しはじめたのよ。は?!?!?!?!
やばかった。
ドレーン、ただお腹に突き刺さってるだけじゃなかった。けっこう長いチューブがお腹の中に滞在してた。それを引っこ抜く瞬間、お腹の中をかき回された。ぐるぐるって。ぐにゃんって。
思ってたんとちがう。
うぎゃーと叫びながらドレーンが抜かれ、消毒され、ガーゼやらなんやら貼られて「はい、部屋に帰っていいですよ」と背中を押された。
は……はい……ありがとうございます……。
生まれたての子鹿みたいに震えながら部屋に戻った。
いつも一緒だったドレーンはもういない。いつもポシェットに入れてトトロのメイちゃんみたいに肩から下げてたドレーンはもういない。点滴用のガラガラ移動できるやつを杖代わりにベッドに戻り、アマプラでアニメをながめ、ときどきポメラで小説を書きながら、あと二週間くらい入院したいなあとか考えていたが二日で退院のお知らせがきた。
「入院はひまだよ」とかよく言うけどインドア派にはむしろやることが多すぎていつも通りの生活でした。食事が運ばれてくるからむしろ快適。ドレーンを抜いた翌日にはじめてシャワーを許されたので、それはほんとにうれしかったけど。
退院の日、両親が迎えに来てくれました。しばらく家で療養、だけどGWは職場復帰しないとな? と思っていましたが「一ヶ月仕事休んでください」と言われて「Oh……」と言葉をのんだ。
いやまあ、そうだよね。休もう。なにしろ私は四か所お腹に穴を開けたんだぜ。
ほかにもいろいろあったけれど、ぜんぶ書いてもきりがない。これくらい書き残しておけば自分だけはあれこれ細かいことも思い出せるし、ちょうどよい。
ひとつ書き記しておけば、私は子宮内膜症という病気で、これは生理がつづくかぎり治る見込みがないものらしい。というわけで再発防止のために生理を止める薬を飲むことになった。一日二回、閉経まで。
……え?
なんのご褒美???
ずっとずっと、止めたくて仕方なかった。合法的に生理を止めていいなんて、まじで運が良すぎるのでは? やば!!! うれしすぎる!!!!
それくらい、生理はめんどい。
まあ、この病気のせいで生理のしんどさが加速してたらしいんだけど。
内膜症についても、そのうち書こうと思う。なんてったって、毎日飲む薬を今日から飲みはじめたからである! 個人差あれど副作用もあるらしいので、記録に需要あるかなーと思って。
しかもさ、調べたら生理のある人の十人にひとりは子宮内膜症らしいよ? けっこう多くない?! LGBTQより多いよ?!(母数ちがうけど、割合としてね)
いつか文フリでこのテーマのエッセイを売りさばくかもしれない。
転んでもただでは起きない私の楽しみは増えていく。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました☆
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