第15話 きくは一時の恥、きかぬは一生の恥

 昔から空気が読めないというか、あえて読まないというか、

 とにかく「えっ、それ言っちゃうの?」ということが多いらしい。


 しかし言っている自分本人はずっとエンジン4速くらいでしゃべっているつもりなので、指摘されたときしか気づかない。なので周りの人間が「こいつ……!」と思っていても、私は気づいていない場面が多々あるはずだ。

 自分のことを客観的に理解できないというのは、こういうことなんじゃないかなと思う。自分では「これは普通」の言動も、他者から見ると「なんだこいつ」と思われ、それが「個性」につながっていく。


 高校のとき、何かの本で読んだのか、私は「吃音」という概念を知った。

 言葉がつまって、どもってしまう症状のことだ。

 クラスメイトに、いつも言葉がつまってしまう女子がいた。彼女は見るからに暗く、いつも教室のすみっこにいる存在だったが、あいうえお順で席が近かったのもあったし、高校三年間同じクラスだったのもあったし、私はグループとか関係なしに興味があれば誰も彼も(男子以外)話しかけるKYタイプだったので、彼女とも仲が良かった。

 それで、私は彼女の席まで歩いていって、「吃音なの?」と尋ねた。


 これがあとあとになって、友人から「それおまえだから訊けるんだよな……」とドン引きされた事件である。


 しかし当時の私はまったく普通に「部活なにやってるの?」くらいの軽い気持ちできいたんである。彼女も「そうだよ」とさらりと答え、特定の子音からはじまる言葉が特に苦手なこと、自分の名字も名前もその子音からはじまるので自己紹介が苦手だということを教えてくれた。


 私は「はえ〜なるほど、よくつまる子だとは思っていたけどちゃんと名前のある症状だったのか〜」とまたひとつ賢くなったのである。


「あの人何歳なんでしょうね?」と誰かが言えば、

「もしもし、あなた何歳ですか?」と訊いちゃうし、

「あいつなんでいつも私に冷たいんだ?」と思えば、

「あんた私のこときらいなんですか?」と訊いてしまう。


 でもこれ、なぜかドン引きされる。

 なんでや。

 だって気になるなら訊けばいいのに!

 そしたら一瞬で解決じゃん!


 KYには謎の多い世間様である。


 

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