第27話 ヒヤリハットの法則

 ……なるものをご存知だろうか。


 正式名称はハインリッヒの法則。1:29:300の数字であらわされる、労働災害における経験則のひとつである。一件の重大事故の背景には、29件の軽微な事故、300件のヒヤッとや、ハッとするような些細なミスが隠されているという統計学的な数値だ。


 これ、意外に汎用性のある数値ではないかと個人的に思っている。

 たとえばこうだ。


 一人の有名な作家――村上春樹とか、東野圭吾といった、一般人でも知っているような名前の小説家――の背後には、きっと29人の「そこそこ本は出しているけれどそれだけでは食っていけない、売れない作家」がいる。そしてそのうしろには、300人の「デビュー作で終わっちゃった」「鳴かず飛ばず」の小説家が隠れている。このデビューにすら届いていない、小説家になりたい・なれそう・なれない人が、たぶんもう一桁多い数字で順番を待っている。


 うお。鳥肌がたってきた。


 ピラミッドの頂点なんて、とても無理。栄光ある「1」の数字は、はなから期待していない。ときどき、「どうせならてっぺん目指せ!」なんて無責任に根性論を振りかざす人もいるけれど、私そこまでじゃないんで、ええほんと、ノーサンキューです。こっち来んな。レリゴー。という感じ。


 でも、せっかくならば29は目指したいと思っている。え、その前に300? それは行くよ。当たり前じゃん。


 まあしかし、ネットで誰でも簡単にクリエイターになれるこの時代、小説で食ってくなんて現実的ではないなと随分前に気がついた。知り合いに作家さんは何人かいるが、みんな口をそろえて「結婚して主婦作家になれ」と言うから笑える。ごめんなさいみなさん、私いま彼女いるんで、結婚は難しいかも……。


 ともあれ、物欲は著しく低いサトリ世代というやつらしいので(本当はゆとり世代だけど)必要最低限の金さえ稼いで、あとは好き勝手に小説書いて、のんびり29を目指すとしよう。90歳越えのおばあちゃんが文学賞もらえるんだもの、急ぐ必要性はまるでないんである。


 おばあちゃんになっても書くぞー。

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