第59話 ひとりでできるもん!(治水)

 やっぱりデキる女子は治水のひとつもできないとね!



 え? ちょっとなに言ってんのかわかんねえって?


 あれですよあれ。ヤマタノオロチ伝説は「天皇家は治水もできるんだぞすっげーだろ」っていうアレですよー(もっとわかりにくくしているけれど、日本の昔話で蛇を退治する話が出てきたら治水の話だと思ってくれてほぼ間違いない)




 先日まで実家に帰っていたんですけれどね、あそこ、すごい避暑地なんです。夜は防寒です。寒いです。でも星がめっちゃ綺麗です。肉眼で天の河見えます。


 そんな実家は森の中。家のすぐそばを小川が流れています。

 私はこの川に沿って散歩するのを実家に帰った時のルーチンワークにしています。最終目的地は三百メートルほど先のため池です。下草をかき分けながら進むので結構ハード。


 で、今回は最終日に散歩することにしました。

 実家、住み込みで色んな人が常にいるから、こういうときにしかひとりきりになれないのでね!




 でも今回は最後まで行けなかった……。

 川が壊れていたせいで!!!



 はじめは「なんじゃこりゃあ!」とわけわかめでした。

 なんか川の一部が決壊してて、水がじゃんじゃか流れ出ているじゃあないの!

 そしてその水が森全体に広がって、ちょっとした沼地みたいになっているじゃあないの!!


 何日か前からこうなのか、すでに水に浸かっている森の地面は草がなく、茶色い地面がのぞいている。しかも結構な広範囲。ため池まで行く前にスニーカーがびしょ濡れになること必至!!!


 こりゃいけねえ、となんでもできる父を呼び出し、「なんとかして!」と頼む私。


「お客さん来ちゃったから、なんとかしといて」




 まじかよ。




 父は立ちションだけしてさっさと行ってしまった。ひどい。


 私は実家で九連勤もして、今日は帰る前に束の間の休日を貰っていたのだ。明日は東京で普通にバイトあるし。高速バスの予約は夕方。



 くっそー。

 やったらあ!!



 まず、川の中央で流れを邪魔しているでかいタイプの空き缶を除去する。川幅は一メートル半くらい。岩がごつごつしているけれど、裸足になるしかない。冷たっ!


 靴下とスマホをスニーカーにしまい、ズボンをひざまでまくりあげて(そう、この避暑地では真夏でも長ズボンだ!)いざ、川の中へ!




 はじめて五分で泣きそうになった。




 無理だよー、決壊部分に石とか空き缶とか積み重ねてみるけど、すき間からじゃんじゃん水が流れてくじゃんかよー。


 うう、どうすればいいんだ。

 もっとでかい岩が必要なのか?

 でもあたくし非力な乙女だし、そんなの持てないよー、ナイフとフォークより重いものなんて持ったことないよー(いつも実家から帰るときに7キロのお米を三袋ほど貰って帰っている)



 あ、そうか、とここでひらめく。

 決壊部分だけに目を向けていては駄目だ!

 もっと本質的に流れを変えなくては!!!



 少し上流に行って、重すぎず、でも私でも動かせそうなくらいのでかい岩をごろっと動かし、決壊部分の方へ流れ込まないようにしてみる。


 うーん、あんまうまくいかねえな。どうしても水が行ってたまって、そこから決壊部分に流れ込む。


 あれ? じゃあ、水がたまらないようにすればよくね??


 今度は下流へ。

 岩が二つほど進行方向の邪魔をして、水の流れをせき止めていた。それが決壊の理由と見た!!


 この岩は重くて動かせないから……よし、すき間を掘っちゃおう!!


 小石や泥を決壊部分に捨てながら、水をせき止めていたつっかえをかき出して、川の流れを作る! 私天才!!!



 やったー、水が流れて、決壊部分にあんまり流れなくなったぞ!!



 それから対岸の岩をちょっと動かし、水の流れを勢いよくさせて、あんまり決壊部分に水が行かないように調整。しめしめ、これで大丈夫だ。ふう、めっちゃ疲れた。


 ちなみに「上流」とか「下流」とか「対岸」とか書いてるけど、これみんな半径二メートル以内の話だからね。小川ですから。



 それにしても最近雨が続いたから流れは急だったぜ!

 そして冷えたぜ! 寒い……え、なんか吐き気が……うええ。




 というわけで、帰りのバスではひたすら吐き気を抑えるツボを押しつつ渋滞に耐え、次の日はバイトを代わってもらって、一日寝ました。


 仕方ないね。蛇を退治したらなんか負債をもらってしかるべきだもんね。




 まあでも、面白かったよ?


 みんなも機会があったらやってみてね、治水!

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