第13話 ルージュのお値段

 ママがアウトレットでクランベリー色の帽子を買ってくれた。

「口紅したらいいかもね! 帽子と同じ色が似合うよ!」


 最後に化粧をしたのは友達の結婚式。花嫁から「今日はなんか綺麗だね?」と言われ「がんばった!」とにこにこするくらいの化粧への興味の薄さである。


 しかしシェフの奥さんがときどき化粧品をくれる。友達がメーカーに勤めているらしい。しかしそのファンデ、奥さんの肌には白すぎ、一緒に働いているイタリア人には黒すぎる。ちょうどいい塩梅にハーフの私がいたのでありがたく頂戴した品である。オーガニックで肌に優しく、石けんで落ちるという私にぴったりな逸品。クレンジングないもんなー。


 ママに褒めそやされた私は気を良くして口紅を買いに行った。

 ところが私は知らなかったのだ。化粧品が基本お高いということを……。


 口紅一本二千円て。

 帰った。


 母の進言をきれいに忘れ、やれバイトだ新人賞の公募だと忙しくしていたころ、コピー用紙が足りなくなったのでホームセンターへ向かった。さっさと必要なものをチョイスし、レジに向かう途中でとある可能性に気がつく。なんでも売っているみんなの味方ホームセンター。化粧品くらい、あるんでないか?

 あった。一本七百円! 母に買ってもらった帽子と同じ色をチョイスして、ほくほくしながら帰宅した。


 翌日バイト先へつけていくと、イタリア人から褒め言葉をあれこれ投げかけられた。いい気になって「そうだねー、これからは毎日つけちゃおうかな?」と言うと「毎日つけなさい!」と命令された。


 でもねえ、本当はお化粧って苦手なのよ。

 高校の時、幼なじみにアイシャドウやらマスカラやら塗りたくられ、「あんたこれで学校行ったら絶対モテるよ!」と言われたのだが、「化粧をする女の子を好きな男を私は好きになれないな……」と思ったので、結局すっぴんで通した。


 そのエピソードを語っていると、バイト仲間が割りこみ「それは違う。おれだって化粧する子好きだし」と呆れ笑いしながら言ってきた。イタリア人は「そうよそうよ、化粧しなさいよ」と賛同したが、私はそのセリフに激しく疑問を感じていた。


 違う……って、何が?

 え、私はあなたみたいな人を好きにはならないけど……?


「化粧をする女の子」を好きになる人、を私は好きにならない。私が好きなのは「まき割りのできる男」なのだから。


 ワイルドな男、空から落ちてこないかしら。

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