第20話 オランウータンで始まる友情
年末の話である。
年賀状を印刷しようと、町のコンビニを渡り歩いた。というのも、USBをにぎりしめて訪問したどのコンビニのプリンターでも、データが読み取れませんと断られ続けていたのである。
ヒッピーのような家庭に生まれ育った私でも、年賀状は出す。若者の年賀状離れが叫ばれようとも、美術系の学校に通う若者に目を向ければ、年賀状の文化が息づいていることに気がつくだろう。絵を描く人間にとって、干支というお題付きのイラストハガキを年に一回書けるのは、ちょうどいいイベントなのだ。小学生のころから宮崎駿の水彩画集をながめてはナウシカの模写をしていた私も、やはり絵が好きだ。
しかし、私は町を歩き回りながら途方に暮れていた。昨年は年末に都心部に行くついでがあり、そこでプリントしたのだ。今回も同じくPDFデータでのぞんだというのに、読み込めないとはどうしたことか?
家に帰り、TEFで、JPEGでと再三挑めど、結果「読み込めません」の壁は砕けず。そろそろ泣きそうになっていた。なんで我が家のプリンターはハガキが印刷できないのだ! ええいくそ、もうビックカメラの店員さんのオススメなんか聞くものか!
と、半分やけっぱちでセブンイレブンに入り、プリンターに向かったところ、おばあちゃんと目があった。
「あら! やってくれるの?」
ええと、はい、やりましょうとも。かまいませんよ。今日は休みで、すでに三回くらい家とコンビニ往復してますから。ひまです私。
ポンポンとプリンターの指示に従い、おばあちゃんの持ってきたA4プリントを両面印刷して、オランウータンのポストカードもカラーコピーしてあげると、「このオランウータン知ってる?」からはじまるおばあちゃんの長話に付き合う私。おばあちゃん、すっかり気をよくして飴ちゃんを三つくれた。なんでおばあちゃんって、いろんな種類の飴ちゃんをいつもポケットに配備してんだろ? うれしい。
さて、おばあちゃんがいなくなったので私の番である。USBを差し込んで、「南無三!」とばかりに読み込み開始。
このデータは読み込めません。
はい、出ました。なんかね、ちょっとそんな気はしていたよ。もう潔くあきらめようかな。そのときだ。背後から声がした。
「あなた、コーヒーは好き?」
なんとおばあちゃん、まだ帰っていなかった。しかも私のためにコーヒーを買っている。あらうれしい。私、一日に一回はコーヒーを飲むことにしているのよね。
それからおばあちゃんは自分の分もコーヒーを買い、飲み終わるまで近所の話やおばあちゃんの家系の話などをしてセブンイレブンの入口をしばらく占拠した。だだ下がりだったテンションが、人の優しさに触れてちょっと回復。
その後、帰ってから検索すると、なんと便利なことに、ネット上にデータをあげてコンビニプリントできることが判明した。早速アップロードし、コンビニへ。ストレスフリーで印刷完了。早くこれやっときゃよかった……。
とにもかくにも、無事年賀状が出せた。いい散歩になったし、何よりおばあちゃんとのコーヒーブレイクも悪くない。
今年もいいこと、あるかなー。
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