第11話 きっかけ

 あれはまだ私が中学生のころ。

 わけあって別居していた父に、話の流れで「私の誕生日いつか知ってる?」と聞いたことがある。父、しばらく考えたのち「11月?」と言った。

 うん、10月だよ。惜しい!


 そんなことがあったからか、次に電話をかけたとき、父が「誕生日プレゼント買ってあげる」と言ってきた。うれしいじゃない。父からプレゼントもらえるなんて、親が同居してたとき以来だよ。ママは誕生日忘れないからね。


「何が欲しい?」

「じゃ、本」

「え? なんの本?」

「なんでもいいよ! お父さんが選んで!」


 さて、父の家に行った当日。

 私はわくわくしながら「本どこにある?」と訊いた。

「うん、玄関」

「やったー」

 しかし、このとき私の頭には「?」が浮かんでいた。


 私の生家は父の手作り。「北の国から」のゴローさんが作る家なんて没個性的ね、所詮テレビマンが作ったんでしょうね、と上から目線が入るほどの個性派ハウスである。玄関には本をポンと置いとける靴箱なんてなかったはず……?


 あった。

 靴のあいだに押し込まれるように、段ボールがぽつんと。中には大小さまざまな本がずらっと並んでいる。


「ちょっと! くれるのどの本?」

「うん? 全部」

「は?」

「全部あげるよ」


 ……まじか。これ持って電車で帰れってか。家まで2時間半あるぞ。

 中を改めて、笑ってしまった。ほんとにいろんな本がある。

 数えてみたところ、11冊。


 覚えているタイトルがこちら。

「ノーベル賞受賞者に訊く 子どものなぜなに」「英会話なんて中学英語! 簡単じゃん!」「マイライフアズアドッグ」「ローワンと魔法の地図」「バーティミアス サマルカンドの秘宝」


 半分しか覚えていないもんだなあ。

 とにかく、ジャンルが多岐に及び、「こんだけありゃ1冊か2冊気に入るものあんだろ」という投げやりな感情が手に取るように伝わって面白かった。しかも英語の本をぱらぱらめくっていたら手書きのメモがあったので、一度人の手に渡っている。父、「子ども向けにいい本あったら教えて」って、人に訊きまくったんだろうなあ……顔は広いし。


 父は私にくれた本のタイトルを1冊たりとも覚えていないだろうが、私はこのときもらった「ローワン」と「バーティミアス」を読み、本格的にファンタジー小説を書きはじめたのだった。


 ありがとう、父。

 また2時間半かけて行くね。気が向いたら。

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