第8話 ニートの旅
まだ小娘と名乗ってもそれほどしかめ面をされなかった時分に、車中泊の旅に出たことがある。
慣れない仕事で身も心もボロボロだった私。
父親のピックアップトラックを一年間借り受けて、枕、マット、食料、簡易コンロ、最低限の着替え、長靴などを詰め込んで一人走り出したのである。
ルールはひとつ。高速道路は使わない。
一日50キロほどすすんで、日帰り温泉につかり、知らない町を散策し、夜は道の駅に停めて一泊。
長野近辺は天国だった!
温泉はいっぱいあるし、自然は最高!
県外へ行っても面白いことはたくさんあった。
女城主の町という、昔の町並みが残る観光地ではお酒の試飲ができたし、お団子屋さんのおばちゃんと仲良くなった。関ヶ原に行ったときには、そこで初めて「関ヶ原って地名だったんだ!」と気付き、琵琶湖周辺の温泉でおばちゃんたちと仲良くなり、お宅に泊めてもらったりした。
たいていの人は「旅をしている」と言うと、「仕事は」と訊く。私はいつもバカ正直に「辞めちゃったんです、貯金があるうちに旅をしておこうと思って!」とにこやかに返す。すると意外にも、人々はたいてい「そりゃいいね!」と軽く返してくれたのである。
こんな社会不適合者を、こんなにもあっさり受け入れてくれるなんて……感動。
てっきり「ばかやろう、さっさと帰って仕事しろ」と罵倒される日々かとびくびくしていた私は(辞めたばかりですっかり心が疲弊していた)「まあなんて素敵な人生なのかしら! 渡る世間に鬼はなし! やりたいことやろう! どうせ100年後には死んでるんだし!」と、るんるん気分でポジティブさを取り戻していった。
でも、ときどき不可解な言葉を投げられた。
「自分探しの旅か!」
ちがいます(笑)
自分は探していません。「私」はちゃんとここにいます!
また行きたいなあ、一人旅。
今度はヒッチハイクをやってみたいんだけど、女一人ではさすがに危ないかしら。
いやいや、渡る世間に鬼はいないらしいし、殺人鬼なんてご近所にひそんでいてもおかしくないご時世だし、ま、いっか。
しかし、今の仕事は気に入ってるから、とうぶんニートになる予定がない。
こまったぞ。
いつ行こう。
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