第5話 家電の話 その2

 一人暮らしをはじめたのは、私がまだハタチそこそこだったころである。

 リーマンショックの影響を時間差で食らった私は、当時流行りの内定取り消しにあい、華々しいフリーターライフを満喫していた。


 ちなみに同じ会社で取り消しを食らった他十名の新卒さんたちとは、今でも「幻の同期」というライングループでつながっており、2、3年に一度会食しては近況報告をしつつ呑んだり呑まれたりしている。


 さて、当時格安アパートに住んでいた姉が結婚する運びとなり、姉が引っ越したあとの部屋に私が住み着くことになった。

 このアパート、父の友人が所有していて、我が家の兄妹は皆厄介になっている。外から見ると「これ人住めんのか?」ってくらいボロいが、中に入れば悪くはない。しかも前の住人である姉たちが、押し入れを机に改造したり造り付けの戸棚を取り付けたりと、ボロさにかこつけてなんでもアリだったので、住みやすいことこの上なく、するりと引っ越しが完了した。

 もともとボロすぎて誰も住んでいないところへ、兄の上京にあわせて無理言って貸してもらったアパート。兄の元カノの元カレ、姉の彼氏の妹、その同僚、父の友人、とだんだん人口が増えてきて、私が引っ越すころにはなんだか知り合いばっかり。「お醤油貸して」が地でいける、引きこもりにとってはちょっと気が引ける環境になっていた。

 ちなみにこのアパートはもうこの世には存在しておらず、こないだ自転車で通りかかったら立派なお宅が二軒並んでいた。


 引っ越しのとき、掃除機と炊飯器とトースターをくれたのがママである。

「はじめは買うの大変でしょ」

 とママ。なんともじんとくるじゃない。

「でも実家の分がなくなっちゃうよ?」

「いいのいいの。おじいちゃんに新しくてもっといいの買ってもらうから」

 なんともしらけるじゃない。

 洗濯機は姉が置いていき、冷蔵庫と電子レンジは姉の彼氏の妹がくれた。

 私が引っ越しして買った一番高かったものって、たぶん10キロのお米だ。


 さあ、あれから何年経ったかな?

 ていうか皆さん、私にいろいろくれたけど、その時点で何年使い込んでいたんです? ええ、ガタがきていますよ。どばっとね。一気にね。たぶん寿命がきたせいかなと思っているんですけれど。


 そろそろ年の瀬、ってことで部屋を掃除していた今朝ですよ。

 なんだか掃除機の吸引力が弱くなってきましてね、ふっと電源が切れましてね、ありゃあと思って見たらコンセントが外れかけていたんで、ちゃんと差し込んでもう一回オンにしたら、今度はゴミ袋を交換しろのサインが出るじゃない。

 交換しましたよ? まだ満杯じゃなかったにもかかわらず。

 でも電源入れたらまた交換しろのサインが出るんだもの。

 はんだごての臭いがそこはかとなくただよってるんですもの。


 近いうちにまたトレファク行かなきゃいけません。でも、近いうちにまた誰かが倒れそうな気がするんです。ポジティブな私もさすがに疑心暗鬼です。

 次はどいつだ? 炊飯器か? トースターか?

 iMac、君は持ちこたえてくれ。

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