対 ???⑦
道なき道、と言っても過言ではない悪路を、ジャパリバスが疾走する。
「おあぁ…あぁああ…あぁあぁあ…」
ガクガクと揺れるバスにされるがまま身を揺さぶられつつ、アライグマは震動する呻きを出していた。
「やー、すごい速さだねぇ」
「フフフフェネックはなんでそんななな」
椅子にしがみついたまま揺れる声を発する相方とは正反対に、涼しい顔で揺れを受け流して平然と座っているフェネック。
その横ではリカオンが、慣れぬ感覚に青い顔をして背中を丸めていた。
「き、気持ち悪い…」
「しゃきっとしてくれないと困るよー頼りにしてるんだからねー」
ツアーコースも安全運転も全て放棄し、一刻も早く山に向かうよう2号に頼んだのは自分たちなのだ。
その結果がこの爆走運転なのだが、いかんせんとんでもない道を猛スピードで走るので、バスは揺れに揺れていた。
「バスが壊れないようにだけ気をつけてねー」
フェネックは運転席に陣取る2号をのぞき込んで声をかけた。
どこかに捕まる手も、体を固定するような何かもないのに、2号の体はどんなにバスが弾んでも椅子に吸い付いたように動じなかった。
その2号の欠けた耳がふいふいと明滅し、目が緑に輝いているのにフェネックは気付く。
『暫定パークガイド兼調査隊長ノ就任ヲ確認。コレニヨリ、パークガイド補佐役ノ個体ガ最上位個体ニ昇格。最上位個体カラノ通信ヲ受信チュウ…』
「んー?なんか難しいこと言ってるねー」
理解できない2号の言葉にフェネックは首を捻る。
2号はそんなフェネックにお構いなしでさらに音声を発した。
『――当個体ハスデニ任務実行中ノタメ、メッセージノ再生ヲ行ワズ任務ヲ続行シマス』
目と耳の輝きを消したボス2号の後ろ姿からは、どこか誇らしさというか、やる気のようなものが感じられて。
首を捻ったまま耳をぱたつかせたフェネックを振り返らず、2号は尻尾を大きく振った。
『サァ、モットスピードヲ上ゲルヨ。シッカリ捕マッテテネ』
――じゃんぐるちほー
「うっ…うぇっ…」
「…」
動かないフレンズの側にへたり込んだまま泣き続けるコツメカワウソと、黙りこくるジャガー。
傷心していた彼女たちはピコピコと聞こえてきた不思議な足音に顔を上げた。
先ほどまで茂みの間からこちらを見ていたラッキービーストが、側までやってきていた。
「ボス…?」
涙を拭って首をかしげるコツメカワウソ。そんな彼女をまっすぐ見つめ、ラッキービーストは耳をぴんと立てた。
『――大丈夫ダヨ、安心シテ。ソノフレンズハ、シロミミオポッサムダネ。シロミミオポッサムハ、天敵デアルオセロットナドニ襲ワレルト、死ンダフリヲシテヤリスゴスンダ。見タトコロ怪我モナサソウダシ、シバラクシタラ擬死状態ヲ解イテ動キ出スヨ』
「は!?」
「へっ!?」
突然喋り出したラッキービーストに、尻尾を立てて仰天する二人。
「ねっ、ねぇジャガー聞いた!?この子大丈夫だってボスが言ったよ!喋ったよ!かばんがいないのに!どうして!?ふしぎー!へんなのー!」
動かないフレンズの無事を知った喜びと、何故か喋り出したラッキービーストへの興奮が抑えきれぬ様子で、コツメカワウソはまくし立てるように歓喜の声をあげながらジャガーの身を揺さぶる。
「一体全体なにがどうなってるんだ…全然わからん…」
呆然としたままコツメカワウソに揺さぶられるジャガーに、ラッキービーストは目を向けた。
『暫定パークガイド兼調査隊長ノ「カバン」ニヨリ、一時的ニボク達ラッキービーストハ君達フレンズト関ワルコトヲ許可サレタ。「カバン」カラ現在コノパークニ起キテイル異常事態ニツイテ、報告ガアルヨ』
「かばんが…?」
「なになに?どーいうこと?」
のぞき込む二人に対し、ラッキービーストは図書館からのメッセージを再生し始めた――
…
かばんがボスを通じて各地のラッキービーストに命じたのは、野生暴走を免れたフレンズを捜索して合流すること。
合流したフレンズ達に、黒い嵐と野生暴走、変異サンドスター・ロウや凶暴化セルリアンについて説明した自分のメッセージを伝えること。
戦闘が得意ではないフレンズはとにかく身の安全の確保に努め、戦う意志のあるフレンズ達は遊園地へ集結してほしい旨を同時に伝えるよう指示した。
そして、ラッキービースト達にはフレンズ達と行動を共にし、安全な場所や遊園地への道案内、その他説明・相談役など、有する能力をフルに用いてフレンズ達をガイドするよう任務に加えた。
「――…ふぅ…これでひとまず、被害の拡大を抑えることができるかと…」
ボスに指示を出し終わって一息ついたかばんは、フレンズ達が驚嘆の目で自分を見ていることに気付いた。
「どうしました?」
「いえ…お前があまりにも的確な指示と説明を、鬼気迫る勢いで行っていたので…思わず圧倒されてしまっていたのです…。これがヒトのかしこさなのですね」
「違うよ、博士」
感心の言葉を口にする博士に首を振ったのは、サーバルだった。
「ヒトがすごい…のはそうなのかもしれないけど、かばんちゃんだからすごいんだよ、きっと」
手を後ろで組み、信頼の目で見つめてくるサーバルに、かばんも穏やかな笑みを返す。
その時。
『ビーッ!』
ボスが不意に緊迫感を煽る不愉快な音を立て、かばんもフレンズ達も驚いて彼を見下ろした。
『――ゆきやまちほーカラ、緊急通信ガハイッテキタヨ。誰カガカバント直接話ガシタイミタイダネ。通信ヲ開始スルヨ』
「ゆきやまちほー…!?通信を開始って…どういう――」
ボスの前にしゃがみこんで身を乗り出すかばん。ボスが目を緑に光らせる。
ザザッと雑音が何度か流れた後、戸惑うような、恐る恐ると言った感じの声色で誰かが話す音声が聞こえてきた。
『――えっ…これどうすればいいの…?このままお話しするの?ねぇボス…』
「キタキツネさん!?」
思わず大きくその名を呼んだかばんの声は、ラッキービーストを通じて向こう側にも届いたようで、声の主は――キタキツネはうひゃあと情けない声を上げた。
『び、びっくりした…もうお話できるのか…。不思議な感じ…』
「驚いたのです…。どうやってこのラッキービーストの通信を使ったのですか?」
博士の疑問に、キタキツネは呼吸を整えて答えた。
『その声は博士だね…。――さっきボスが伝えてきたメッセージ?でかばんが「わからないことがあったらボスに聞いて」って言ったから、試しに聞いてみたんだよ…。かばんと直接お話できないの?って。そしたら、このつーしんってのを教えてくれた…』
「…ゆきやまちほーは、確かかなり早い段階で被害が出てたんじゃなかったかい?」
タイリクオオカミが深刻な表情で呟く。それを聞いて、かばんもロッジでのボスの言葉を思い出した。
「そうだ、ギンギツネさん――キタキツネさん、ギンギツネさんの様子はどうですか…!?野生暴走の被害にあってるはずじゃ…」
少し間を置いた後、キタキツネはゆっくりと語り出す。
『うん…温泉に入りに来てた子に噛みついたんだよ…。でもギンギツネは、ボクには何もしてこなかった。同じキツネの仲間だからかな…?』
「野生暴走してるのに襲わない…そんなこともあるの?」
キタキツネの報告に、トキが首を捻る。博士が拳を口に当てて思案をめぐらせた。
「――自分に害を及ぼさない、獲物とすべき相手ではないと本能的に察した相手には手を出さないのかも知れないのです。恐らくギンギツネはキタキツネのことを、家族かなにかだと理解しているのです。希有なパターンでしょうね…」
博士の呟きが終わるのを待って、キタキツネの声が再度響く。
『…ねえ、かばん…。襲われてケガした子もおかしくなっちゃうって、本当…?』
「え…?あ、はい。だから、キタキツネさんも気をつけてくださいね」
かばんの返事を聞いたキタキツネは、そっか、と力なく呟いた。
『…まるでげぇむみたいだね。噛まれたら自分も化け物になっちゃうげぇむみたい』
「もー、何言ってるのキタキツネ。そんなこと言ってる場合じゃないよっ」
キタキツネの場違いな発言に、いつもは諭される側のサーバルが珍しく諭す。
しかしかばんはキタキツネの言葉に微かな違和感を感じていた。
まるで無理矢理自分を取り繕っているような、空元気のような声と言葉だったから。
――【ギンギツネは、】ボクには何もしてこなかった。
まさか。
かばんは大きく息を呑み、恐る恐るその可能性を口にした。
「キタキツネさん…ひょっとして、誰かに襲われて…ケガを…?」
「えっ――」
皆、驚いたように一様にかばんを見る。
ボスの向こうのキタキツネは、しばしの沈黙の後小さく語った。
『ボクの聞き間違いなら良いのにと思って直接聞いてみたんだけど、やっぱりホントなんだね…。そうだよね…ボクに噛みついてきた子も、ギンギツネに噛まれる前は普通だったもん…』
ボスを通して届けられるキタキツネの声は、弱々しくて消え入りそうだった。
その声を聞き漏らさないよう注意して耳をそばだてると、時折漏れる吐息が心なしか喉の奥で絡むような音を立てているのがわかった。
――まるで、獣の唸り声のように。
図書館の一同は、思わず黙り込んでしまう。
『……ボクも何か手伝えたらって思ったけど、ムリみたい』
「キタキツネ、さん…」
『…嫌だなぁ……ボク、どうなっちゃうのかな…』
ガンッと重い音が図書館内に響き、驚いたフレンズ達がその方を見やる。
かばんはボスを見つめたまま動かなかった。
「くそっ…!!」
振り返ったフレンズ達の視線の先には、牙を軋ませて拳を机に叩きつけているライオンの姿があった。
会話はできるのに、手をさしのべて助けてやることはできない。
そのもどかしさが、無力さが、耐えられないほどに悔しかった。
『――…でも、ボク、怖くない。全然って言えば嘘になっちゃうけど…』
一方で、当事者のキタキツネは比較的落ち着いた穏やかな声で語る。
『かばん達が頑張ってくれてるなら、大丈夫かなって思うから…』
握りしめた拳を小さく震わせ、かばんはこみ上げてくる感情を押し殺しながら冷静に口を開いた。
「キタキツネさん…できれば今のうちに、どこか誰にも会わない場所…温泉の建物の中の部屋かどこかに身を潜めるようにしてください。そうすれば、野生暴走中のフレンズさんに襲われる可能性が減りますし――」
一度、ぐっと唇を結んでから、かばんは吐き出した息と共に言葉を紡いだ。
「――あなたが、誰かを襲ってしまう可能性も、減ります」
「なっ…」
あまりにも酷なことを、はっきりを伝えるかばんに、思わず声を溢したショウジョウトキを始め数人のフレンズがかばんに目をやる。
その彼女の横顔はあくまでも冷静で。
しかし震える拳には、グローブ越しに掌を傷つけてしまうかもしれないと思えるほどに力がこめられていて。
フレンズ達は何も言えず、ただ俯くことしかできなかった。
『…わかった。ありがとう、かばん』
「……助けてあげられなくて…ごめんなさい…」
一体どんな思いで、どんな顔をして、キタキツネはこのラッキービーストの向こう側で、自分の言葉を聞いているのだろうか。
謝ってもどうにもならないとわかっていつつも、自責の念から謝罪の言葉を口にするかばん。
すると、少し沈黙を挟んでからキタキツネの、「だいじょーぶだよ」という声が返ってきた。
『しばらくの間げぇむができなくなっちゃうのは嫌だけど…』
ふー、と長く息を吐き、キタキツネは少しだけ語気を強めた。
『ボク、信じて待ってる。――がんばって』
普段は口数が少なく、必要以上のことは話さないキタキツネ。
そんな彼女がはっきりと述べた激励の言葉。
ボスは、そんなキタキツネの最後の言葉を伝え終わると、瞳の輝きを消した。
「あっ…!」
サーバルが反射的に声を上げてボスに手を伸ばしかけ、尻尾と耳を力なく垂らした。
静かな空間に、苛立つツチノコが舌を打つ音が響く。
黙したまま立ち上がったかばんに、博士が歩み寄って声をかけた。
「――気に病まないようにするのですよ、かばん。キタキツネがこうして通信をよこすことができたということは、お前がラッキービースト達に出した命令がうまく機能しているということなのです。ちゃんとラッキービースト達がフレンズ達に現状を伝え、力を貸してくれているのです」
「…はい」
ぎゅっと鞄の肩紐を握りしめ、かばんはフレンズ達を見回した。
「――遊園地へ向かう準備を整えましょう」
…
各々が、遊園地での決戦を迎えるために万全の支度を行う。
博士が地下室に貯め込んでいたじゃぱりまんを、フレンズ達が手分けして運び出していく。
「ヒトの言葉に、腹が減っては【いくさ】は出来ぬ、という合い言葉があるそうなのです。我々フレンズも同じなのです。じゃぱりまんは貴重なサンドスターの補充源。戦いで消費したサンドスターや体力を、多少補うことができるのです。食事は大事なのですよ」
無数のじゃぱりまんを袋に詰め込みながら、博士はそう語っていた。
外には、かばんが料理を行ったときに使用した水源から、容器に水を満たしているフレンズもいる。
長引くかも知れない戦いに備えて、食料と水分は大量に確保しておく必要があった。
「しっかしすごい荷物だな…。手分けして運ぶのか?」
じゃぱりまんの袋の山と、並べられた重たい水の容器を眺め、ツチノコが顔をしかめる。
そこへやってきたのは、ふわふわとした笑顔を浮かべるアルパカ。
「あーそれなら任せてぇ」
ほいほい、と手際よく袋と水の容器を積み上げたアルパカは、その荷物の山を可能な限り抱えると。
「よいせっ」
と軽い一言で簡単に持ち上げて見せた。ツチノコはギョッとして目を剥く。
「な゛っ!?お、お前…すごいな…」
「うぃー?これくらいラクショーでしょ?このまま崖登りだってできちゃうよぉ」
「でもさすがに手に持てる量は限られてるわよ。何か荷物運びに便利なものがあればいいんですけど…」
キョロキョロと辺りを見回すショウジョウトキ。ちょうどそこに、タイリクオオカミがなにやら変わった道具を手に近付いてきた。
物を載せられそうな形に組まれた板に、肩紐のようなものがついている。
「こんなものを見つけたよ。かばんが背負っているものに形が少し似ているね。ここに荷物を載せたら、一気に背負って運べるんじゃないかな?」
そばにいた博士がそれを見て、あぁ、と声を上げる。
「外の調理場に置いてあった物ですね。どうやらヒトはそれに【薪】という木を切った物を載せて運んでいたようなのです。それに荷物をまとめて固定するといいのです。お前達、手伝うのですよ」
荷造りを始めた彼女たちの傍らで。
「…おい、かばん。大丈夫か」
「あっ!ご、ごめんなさい」
椅子に腰掛けたヘラジカに声をかけられ、考え事をしていたかばんは止まってしまっていた手を慌てて動かした。
決戦に備え、かばんはサーバルとヘラジカの傷を塞ぐ包帯を、新しい物に交換する作業を行っていた。
比較的傷の小さいサーバルの包帯とガーゼはすぐに交換し終わり、彼女はトキと共にボスと何やら話をしている。
ヘラジカの傷は場所も悪く、巻き直すのになかなか手間がかかった。
毛皮の上からぐるぐると包帯を巻き付けつつ、かばんはまたも無意識のうちに思考にふける。
サンドスター・ロウを止める作戦と、島中のフレンズ達に現状を知らせることを実行に移せたのは良い。
しかし結局、あの黒い自分についての情報はほとんど掴めていないままだ。
このままあのセルリアン達と戦いを始めてしまうのは、正直怖い。
彼女の正体も、目的も、能力も何一つわからないまま戦うのは分が悪すぎる。
せめて何か少しでも、情報になるようなことがあれば――
「――…かばん」
「…ごめんなさい…」
気がつけばまた手を止めてしまっていて、ヘラジカの呼び声で我に返る。
「何をそんなに難しい顔をしているのだ?お前はできることはやった。あとは全力で遊園地に突撃してヤツを倒すのみだ」
猪突猛進思考のヘラジカは、あのセルリアンの得体の知れなさなどあまり気にしていないようで。
もちろん、それで上手くいけば万々歳なのだが、どうしても不安が胸をよぎる。
「いえ…さすがに何もわからないまま、あのボクと戦うのはちょっと怖いなって思っちゃって」
かばんの脳裏には、黒い自分が見せた余裕のある笑みが張り付いていて。
自分とは違って弱気なかばんの考え方を馬鹿にしたりはせず、ヘラジカは黙って耳を傾けた。
「…あのセルリアンが見せていた余裕は、ボクよりも自分が優れている自信があるからだと思います。きっとボクの知らない何かを知っているか、ボクの持っていない力を持っているのかなって思うんです」
そして、そこまでたどり着くことはできないと高をくくられている。
たどり着こうとあがいても、間に合わないと見下されている。
ならば、せめて。
あの自分が想定しているよりも早く、多くの情報をかき集めて、頭の中にたたき込んでおきたいが――
悩みつつもヘラジカの包帯を巻き終えたかばんの耳に、ふとサーバルとトキのやりとりが入ってきた。
「それにしてもボスには感動したわ。小さい体で何でも出来ちゃうなんて不思議。そういえばこうざんでも、凄い早さで草を切っていたものね」
トキはすっかりボスの特殊な能力の数々に虜のようだ。
なぜかサーバルが得意げに胸を張って、ふっふーんと笑った。
いつものペースを崩さない二人の様子は、緊張や不安を幾分か紛らせてくれて、かばんは小さく笑う。
「すごいでしょー?他にも、昔パークにいたヒトのお話を聞かせてくれたり、昔のパークの様子を見せてくれたりもできるんだよ!冒険中も、いきなりでびっくりすることもあったけどよく聞かせてくれたんだー」
「あぁ、かばんが言っていた【ミライさん】のお話ね。一度聞いてみたいわね」
瞬間。ドクン、と心臓が跳ね、熱い血流が体を駆ける。
記憶と知識が奔流となって、かばんの頭の中に溢れかえった。
かばんはそれに呑まれてしまわないように、拳を口に当て、急いで考えを整理する。
突如深い思案に入り込んだかばんの様子にヘラジカは驚いたものの、彼女の瞳の深い輝きに気圧され、思わず言葉を飲み込んだ。
(ラッキーさんがミライさんの記録を話し始めるタイミングは、そのお話と関係するものに近付いたり、お話ししている場所にたどり着いたりした時が多かった。――じゃあ、ずっと気になっていた、あの記録は…)
かばんは手にしていた治療道具を無造作に机に放り出すと、ボスの下へと駆け寄る。
「ラッキーさん!アライさん達が山にたどり着くまで、まだ時間はかかりそうですか!?」
きょとんとするサーバルとトキを尻目に、ボスは即座に2号との通信に入ったようで。
『――マダシバラクカカリソウダネ。慌テテ出発スル必要ハナイト思ウヨ』
と、ボスが言い終わるや否や、かばんは荷造り中の博士をすぐさま振り返る。
「博士さん、もう少し出発を待ってもらってもいいですか?」
「まだまだ山組の時間がかかりそうなら、問題はないのです。しかし一体、どうしたというのですか?」
荷造りを他のフレンズ達に任せて近付いてくる博士。
かばんは彼女に答えるよりも先に、もう一度ボスに視線を落とした。
「ラッキーさん。一つ、お願いしたいことがあるんですが…」
『今ノ君トボクノ立場ナラ、デキルコトハ多イ。何ガシタイノ?』
尻尾を振るボス。かばんは唾を飲み込む。
「ミライさんの残した記録をいくつか見せてもらいたいんです。できれば、ある事柄に関係するものだけに絞って。できますか?」
『特定ノキーワードニ関スル記録ノ再生ダネ。マカセテ。何ニツイテノ記録ガ見タイノカナ?』
ボスが、サーバルが、博士が。多くのフレンズ達が見つめる中、かばんは一つ深呼吸をしてからその言葉をはっきりと口にした。
「――…【密猟者】について」
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