対 アリツカゲラ②
オオカミに案内され、ロッジ内を進むかばん。
じきにその信じがたい光景は目に入ってきた。
「ギッ…!!」
ロッジ内を案内してくれたあの穏やかな笑顔はどこかへ消え去り、眼鏡の奥の瞳はぎらぎらと野生の色の光を放ち。
自慢の装飾や壁を傷つけながら狭い廊下の空を舞うアリツカゲラがそこにいた。
「アリツカゲラさん!」
かばんが名前を呼んでみても、険しい表情に敵意が増しただけだった。
天井に体をぶつけて体の向きを変えるアリツカゲラ。
その手から黒いサンドスターがあふれ出したのを、かばんは見逃さなかった。
「あれは…!」
「危ない!」
タイリクオオカミに体を押さえつけられ、共に床にふせる。そんなかばんの頭上を、急降下して飛びかかってきたアリツカゲラが通り過ぎた。
そのまま逃げるように、アリツカゲラはかばんたちから離れ廊下を飛び去っていく。
「オオカミさん、追いかけてください!」
「わかった」
タイリクオオカミが、そんなアリツカゲラを追跡し始めた。かばんは遅れて後を追う。
オオカミから逃げようとするアリツカゲラが廊下の分かれ道にさしかかると――
「うー、がおー!こっちは通行止めなのだー!」
帽子をかぶったアライグマが、片方の道に立ちふさがり声を上げた。
「ギィッ!」
アリツカゲラは、外敵が――アライグマがいない廊下のほうへと逃げていく。
その先の分かれ道でも、
「残念だったねーこっちはだめだよー」
フェネックが通せんぼをしていたため、アリツカゲラは誰もいない廊下へと進む。
こうして、誘導されたアリツカゲラがたどり着いた細い通路には、一つだけ開け放たれたドアと、通路に立ちふさがるサーバルがいた。
「この先には行かせないよ!」
空中で制止するアリツカゲラ。前にはサーバル。後ろからはオオカミとかばんが近付いてくる。挟み撃ちだ。
「ギッ!」
アリツカゲラは短く鳴くと、高い天井すれすれまで高度をあげる。
そのままサーバルの頭上を飛び去り、通路の奥へ進むつもりだ。
「だから、この先には――」
すばやくしゃがみ込むサーバル。短い尻尾を二、三度振り、折り曲げた足に力を込め、床を蹴る。
「行かせないよ!!」
アリツカゲラが飛ぶ高さまで、自慢のジャンプ力をいかして跳躍し、サーバルは空中通せんぼをするかのように腕を広げた。
「!!」
驚いたアリツカゲラは、まるで踵を返すかのように空中で身を翻すと、最後に残った逃げ道――開け放たれたドアの中へと飛び込んだ。
「やった!」
追いついたかばんは、急いでそのドアを閉じる。
ロッジの中に、静寂が戻った。
戻ってきたアライグマ、フェネックを加えた全員が、閉じられたドアに注目する。
「ど、どうなったんだ…?アリツさんは、この部屋の中で暴れてないのか?」
心配げにこぼすタイリクオオカミの隣で、サーバルが耳をぴくぴく動かす。
ドアの向こうの音を聞いているのだろうか。
「すっごく静かだよ。おとなしくなったのかな?」
走って乱れた呼吸を整え、かばんは頷いた。
「この部屋、【しっとり】のお部屋なんだ。アリツカゲラさん、ここのお部屋紹介してくれたとき、暗くて湿気があって、壁がすぐそばにあるのが落ち着くって言ってたから…この部屋の中に入れてあげたら、落ち着けるのかなって。うまくいったみたいだね」
安心してほほえむかばんの姿に、アライグマは感心のためいきを漏らした。
「聡明なのだ…」
「アライさーん、やっぱりこの子がかばんさんっぽいねー。とってもかしこいし、いいひとっぽいよー」
フェネックの言葉に、ぐぬぬと歯をきしませていたアライグマは、決心したように帽子をぬぐとかばんに差し出した。
「――はい、返すのだ」
「えっ…いいんですか?」
「かばんさんはいいひとなのだ。いいひとのかばんさんに、アライさんは帽子をプレゼントするのだ。さっきは泥棒って言ったり、乱暴なことしたりして、ごめんなさいなのだ」
「やっとかばんちゃんのことわかってくれたみたいで、よかったよ!」
返してもらった帽子をかぶりなおし、かばんはアライグマに礼を言う。
つかの間の和やかな空気。だが、何も解決していないことを、かばんは理解していた。
「――キンシコウさんとキリンさんのけがも心配だし、ロビーに戻りましょう。いろいろ気になることも残ってますし…」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます