対 アリツカゲラ③


「作戦、うまくいったの!?」


ロビーに戻ってきた面々をみて、キリンが明るい声を上げた。


「はい、なんとか…」


対するかばんの返事は、暗い。何かを察し、キリンの表情も少し曇る。


「どうしたの…?」

「アリツさんを宿泊部屋の一つに閉じ込めることはできたし、その部屋の中だと彼女も落ち着くことができるみたいだよ」


ため息を一つついて、タイリクオオカミは続けた。


「ただ…落ち着いたアリツさんに話しかけても意味はなかった。やっぱり、全く会話にならないんだ」


ロビーに戻る前に、タイリクオオカミは今の状態ならばアリツカゲラと話すこともできるのではないか、それを確かめたい、とかばんに提案したのだ。

自分の身に危険を感じたらすぐにでも部屋を出ることを約束し、【しっとり】の部屋へと足を踏み入れたオオカミを待っていたのは、相変わらず目を野生の光でぎらつかせたアリツカゲラだった。

一歩でも近付いたら再び暴れ出しそうなアリツカゲラに、タイリクオオカミは距離をとったまま呼びかけてみたが、返ってくるのは言葉にならない鋭い鳴き声だけであった。


「そう…ですか」


キリンは、アリツカゲラにつけられた傷を確かめるように指でなぞりながらぽつりと呟く。

その横ではリカオンが、ソファに横になったキンシコウを心配そうに見つめていた。

サーバルも心配してのぞき込む。


「キンシコウの具合はどう?」

「あまり、良くなさそうなんです…。どうしよう…」


リカオンの言うとおり、キンシコウの顔色は悪い。

呼吸も先ほどより、少し荒くなっている気がした。


「フレンズの怪我は、サンドスターをとりこむことで早く治るらしい。心配だけど、しっかり休める場所で体を休めさせていれば、自然に体がサンドスターを吸収して元気になるさ。」


タイリクオオカミの助言に、リカオンは少しだけ安心したように表情が緩む。


「ここはいっぱいお部屋があるし、どこかで寝させてあげてたらいいんじゃないかなー」

「そ、そうするよ!」


ぐったりとしたキンシコウを抱えあげるリカオンに、フェネックが近くの部屋を案内する。

二人の背中を見送り、かばんは説明が後回しになっていたキンシコウの怪我の経緯についてロッジ組に話す。

アリツカゲラと同様に、突如話が通じなくなり自分たちを襲ってきたヒグマ。

かばんの話が終わる頃には、アライグマはサーバルの後ろで小さくなって震えていた。

タイリクオオカミが眉をひそめ、低くうなるように呟く。


「こんなことは本当に初めてだね…」

「ジャパリパークにふさわしくない傷害事件ですよ…。この謎、この名探偵アミメキリンが――って言いたいけど、全然手がかりもないし…」


そこへ戻ってくるフェネックとリカオン。

同じタイミングで、バスに残っていたボスもロッジの中へと入ってきた。

ぴょこん、ぴょこんとはねるように移動するボスの目と耳は、山にむかおうとしていた時と同じように、赤々と光っている。


「あっボス!もー何してたの?こっちは大変だったんだよ?」

『非常事態、非常事態。お客サマヲ、避難経路へ案内シマス』


頬を膨らませるサーバルを無視し、ボスは一直線にかばんの元へとむかう。


「ラッキーさん…?」

『非常事態、非常事――』


かばんを見上げたボスの目に、彼女が被る帽子が映り込む。

アライグマによって、赤い羽根が取り付けられた帽子。

するとボスは、発していた言葉を急に止め、いつもの電子音を立て始めた。


「おっ!これなのだ!これが見たかったのだ!お宝のありかがわかるのだ!」

「アライさんは空気が読めないねー。ま、それが良いんだけどねー」

「フェネックうるさいのだー!」


身を乗り出して興奮するアライグマの様子に、周りのフレンズ達もつられてボスに注目する。


ボスの目が緑に光り、ロッジの壁にミライの姿が映し出された。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る