対 ラッキービースト①
『私達やフレンズさん達にとってとても大事な物――サンドスター・ロウをフィルタリングしていると考えられる四神像。それが埋まっている場所は、火口の中心から東西南北――えっと、パンフレットで言うと、う-3の交差点がまさに中心点ですね。
この像が東の青龍なので、あと三つ埋まっていると考えられます。』
映し出されたミライは、しばらく前にかばんとサーバルがむかおうとしていた、サンドスターの山にいるようだった。
草木のない山肌にしゃがみこんだミライは、土の中から頭を出した黒い物体に手を置いていた。
「おおぉー!お宝は四つも埋まっているのかー!」
「パンフレットって、これのことかな…。たしか、「う」とか「3」とかって書いてあったような…」
興奮するアライグマの横で、他にもいろいろ気になることがあるかばんも、とりあえずミライの言うことを確認するためにパンフレットを取り出す。
フェネックやタイリクオオカミも後ろからのぞき込んできた。
「う-3って言うのは…これとこれがくっつくところかな。東西南北っていうのはなんだろう…」
「太陽が昇る方が東、沈むのが西だからー…この印が北なんじゃないかなー」
かばんとフェネックのやりとりに気付いたアライグマが目を丸くする。
「フェネック!?」
「アライさんがいつも突っ走るからさー、星や太陽の位置を覚えるのは基本だよー」
「すごいですね、フェネックさん!」
かばんに褒められるフェネックを見て、アライグマは自分のことのように胸を張る。
「フェネックはやっぱりすごいのだ!」
「なんの話かさっぱりわからないよ…」
「同感です…」
「謎のにおいがするのはわかったわ…」
話題について行けないサーバルとリカオン、キリン。
アライグマは、ミライの言葉を頼りに【お宝】の場所を考えるかばんたちに駆け寄った。
「えっと、ということは――」
「アライさんにも教えるのだー!この騒動が解決した後で、お宝を探しに行くのだ!」
「あ、はい。たぶん、こことここと…それから…こことここ、ですね」
パンフレットの地図をアライグマに見せつつ、ミライが示した場所を指さしていくかばん。
最初はきらきらと光る目でかばんの指を追っていたアライグマだが、途中からうめき始めると、
「ぬあー!そんなに覚えられないのだー!」
頭を抱えて叫ぶ。
「えぇ!?でも、どうしたら――」
「かばん、これを使うといいよ」
パンフレットを興味深そうに見ていたタイリクオオカミが差し出したのは、彼女が漫画を描くのに使っていた道具だった。
「これを使うと、消えない印や模様を描くことができるんだ」
「ありがとうございます!これがあれば――」
かばんはオオカミに渡された道具を握ると、先ほど指さしたポイントに丸を描いていく。
「はい。これでどうですか、アライグマさん」
かばんから渡されたパンフレットを、感動に震える手でアライグマは受け取った。
「おぉ…おぉ…!わかるのだー!これでアライさんは、お宝の場所がわかったのだー!ありがとうなのだー!!」
はしゃぐアライグマは、そのパンフレットを大事にたたむと、かばんの手を握った。
「お宝を安心してじっくり探すためにも、アライさんはかばんさんに協力するのだ!かばんさんは、アリツカゲラたちを治す方法をつきとめるのか!?」
そうだ、今はそれが第一だ。ミライさんの話に夢中になっていたフレンズたちは、ハッと我に返る。
かばんも、借りていた道具をオオカミに返しつつ頷いた。
「はい、もちろんそのつもりで――」
『ダメデス』
かばんの言葉を遮ったのは、無機質な声。
ミライの記録を再生し終えたボスが、ビーッビーッと耳をつく音を立て、再び目と耳を赤く光らせていた。
「ラ、ラッキーさん…?」
『パークノ非常事態ニツキ、オ客様ニハ避難ヲシテイタダキマス。危険デス。危険デス』
まくし立てるように声を発しながら、ボスはかばんの足を体全体で押し始める。
『オ客様ノ安全ヲ守ルノガ、パークガイドロボットノボクノ務メデス。オ客様ハ速ヤカニ移動ヲ開始シテクダサイ。ココカラノ最短避難経路ハ――』
「ラッキーさん」
そんな彼を両手で抱え上げると、かばんは赤く光る彼の目を正面から見据えた。
「ボクはお客さんじゃないよ。ここまでみんなに、すごく、すごく助けてもらったんです。パークに何か起きてるなら、みんなのためにできることをしたい」
耳障りな警告音が、ぴたりと止まる。
『…コレマデニ無イ非常事態ガ起キテイルンダヨ。安全ヲ保証デキナイ。セルリアンノ襲撃以上ノ被害モ十分ニ予想サレルヨ。ソレデモ君ハ――』
「それでもボクは…ボクにできることがあるなら、どんな危険があったってやります」
ボスを抱くかばんの手に、力がこもる。
「ボクだって、このパークの一員なんだから」
帽子の下からのぞくその目には、確かな想いが燃えていた。
ボスの体から、電子音が小さく響く。もう、耳も目も、赤い光を放ってはいなかった。
『ワカッタヨ、カバン。デモ、デキルダケ危ナクナッタラ身ヲ守ルヨウニシテネ』
「ラッキーさん…!」
優しく下ろされたボスは、緑に輝く目でかばんの姿を見つめた。
『カバンヲ、暫定パークガイドニ設定。権限ヲ付与』
二人の様子を黙ってみていたフレンズ達は、おそるおそるといった様子で声をかける。
「かばんちゃん、大丈夫…?よくわかんなかったけど…すっごく危ないかもしれないってボス言ってたよね」
「セルリアンの襲撃以上の被害が予想されるって…よっぽどですよ」
毎日セルリアンと闘っていたハンターだからこそ、リカオンの言葉には重みがあった。
「あぁ…ボスが逃げ道を教えてくれると言うなら、君は素直にそれに従った方がいいんじゃないか?」
どこか心配の色が混じったオッドアイの瞳を、かばんは見つめ返す。
「たしかにボクは、皆さんと違って力も弱いし、動きも鈍いし、戦いにはむいてないかもしれない。けど…それでも、パークになにかとんでもないことが起こっているかもしれないっていうのに逃げ出すなんてできません」
黒いグローブに爪が食い込むほど握った拳を、かばんは胸に当てた。
「身体が弱いからって…心まで弱くなりたくないです」
静かで、控えめだが、どこまでも熱く強い決意。
「……【良い表情】、だね」
思わず圧倒されそうになっていたタイリクオオカミは、小さく笑ってそう呟いた。
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