【番外編】対 「エイプリルフール」




突きつけられた拳銃。



大きな音がして、火を噴いて――…それを向けた先にいる相手を深く、傷つけることができる武器。



それを握るのは、大事な、優しい、親友の――かばん。



サーバルはその事実を理解し、受け入れることが、なかなかできなかった。


「かばんちゃん…?――あっ…けがはだいじょーぶなの…?まだ、動かない方がいいんじゃないかな…」


引きつった笑みを浮かべながらも、かばんの容態を心配するサーバルに対し。

かばんは微塵も表情を変えず、据わった目と拳銃をサーバルに向け続ける。


「えっと…かばんちゃん、それ…なんでかばんちゃんが持って――」

『ボクが渡したからですヨ』


背後から楽しさを滲ませた声が飛んでくる。

サーバルは視線をかばんから、もう一人の【かばん】へと映す。


『触手を使っテ、その子にサンドスター・ロウと一緒に拳銃を与えましタ』


黒かばんは空になった両手をひらひらと見せながら、ニコニコ笑っていた。


「なんで…そんなこと…あれは、あなたの大事な宝物なんでしょ…?」

『アハハ…そうですネ…。あれはボクの大事な宝物。けど今はボクが持っているよりモ――』


にやり、と歯を剥いて、黒かばんは続けた。



『その子が持っていた方ガ、面白いものが見れそうですかラ』



カチリ、と聞き覚えのある音がして、サーバルは再び視線をかばんへと戻す。

確かめるようにちらりと拳銃に目を落として親指を動かし。

かばんはゆっくりと人差し指を握った部分の少し前にある部品へとあてがった。


そこは先ほど黒かばんがあの武器を使う直前、同じように人差し指をあてがっていた場所で。

あの部品を動かすと、あの武器は凶悪な牙を剥くことを、サーバルは理解した。


ようやく、サーバルは現状を飲み込んでいく。



かばんが自分を庇って傷を負い。

その傷から、黒かばんによってサンドスター・ロウを与えられ。

【暴走】状態に陥って。


自分を、襲おうとしているという現状を。





『さア、そろそろ始めよウ…【かばん】。最後の仕上げだヨ』





凍り付いて動けないサーバルを尻目に、黒かばんはこみあげる笑みを抑えることなくかばんへと目を向ける。


「…」


返事は返さないものの、それに応えるようにかばんは人差し指に力を込める。


「あ……え……ま、待って、かばんちゃ…」


どうすればいいのかわからず、サーバルはただただ困惑する。




そして――




『撃テ』






短く言い放った黒かばんの言葉を合図に、かばんは躊躇うことなく、人差し指をあてがった部品を――引き金を引いた。














パンッ











拳銃から飛び出したのは空を裂くような轟音でも、体に穴を穿つような何かでもなく。

乾いた音と、キラキラ輝く綺麗な紙吹雪だった。






「――…………へ?」






目を丸め、サーバルはきょとんとして間抜けな声を漏らす。


『フフフフ…アッハハハハ!!』


突然黒かばんが腹を抱えて大声で笑い出し、サーバルはビクッと耳を震わせた。


『あー最高…!今のサーバルちゃんの焦る姿、笑いを堪えるのに必死でしたヨ』


笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら話す黒かばん。


「え?え?えっと…え??」


何が何やらわからずろくな言葉も紡げないサーバルに、黒かばんはいたずらな笑みを浮かべて打ち明けた。


『サーバルちゃン、これはね…全部【嘘】なんダ』

「う……うそ…?」

『そウ、フレンズさんとセルリアンみんなで協力して作ったお芝居――ドッキリだったんダ』

「おしばい…?どっきり…?」


全く理解できずに黒かばんが言ったことを反復するだけになるサーバル。


『だからネ、【野生暴走】で苦しむフレンズさんモ、パークの危機モ、全部【嘘】なんだヨ』

「………え、ええええー!?」


理解しがたい言葉にサーバルはただただ驚くばかりで。

ちんぷんかんぷんのままパニック状態に陥る彼女に。






「――騙しちゃってごめんね、サーバルちゃん」






そんな、少し申し訳なさそうな、でもちょっとだけ嬉しそうな声が、優しく投げかけられ。サーバルはぴたりと動きを止めて、振り返る。



おもちゃの拳銃を下ろし、眉をさげて笑うかばんの笑顔は、いつも見続けていたものと変わらず、同じで。


「かばんちゃあん…!!」


それを見た瞬間サーバルは全てを理解し、顔をくしゃくしゃにして泣き笑いながら情けない声をあげるのだった。


















それからドッキリのネタばらしをしたフレンズとセルリアンは、平和になったパークでたのしく暮らしましたとさ。


めでたしめでたし。』







『――なんてネ』


ノートに物語を綴っていた鉛筆を手の中でへし折り、黒かばんは低く呟く。


『こんなくだらない結末になるわけがないじゃないですカ』


溜息交じりに吐き捨てて、ノートを閉じる。


『これは【嘘】の結末でス。わかりきったことだと思いますガ…』


――誰に言うともなく、黒かばんは一人語り続けた。




『まぁでもこれが嘘だとわかるということハ、こんな結末望んじゃいないっていうことですよネ』




『…これが一番平和的解決のはずなんだけド』




『じゃあ一体どんな結末が望まれていテ、ボク達は一体どんな結末を迎えることになるのかナ』




『……【本当】の結末は近イ…。たとえどんな結末になろうとモ、それが彼女達が旅した素直な結果デ、ボクが実行した大規模な計画の素直な結果なんダ』




『アハハ…楽しみだなァ…。どんな輝きが見られるんだろうネ…』




『とりあえズ、【嘘】の物語を綴るのはここまでにしておこうかナ』




『…あァ、そうそう…あのフレンズに言われた時はムカついたけド、ボクもちょっと言ってみたかったんダ』






『――良い顔いただきましタ』






【嘘】の物語を書き綴ったノートをしまって、黒かばんはいたずらな笑みを浮かべた。






対 「エイプリルフール」 おしまい。

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