異世界で屋台飯を食べる3
しかし、どこに行ってもそういうスペースが見つからない。
「しまった。先に探しておくんだった」
「おっちゃんどうしたの?」
「迷子になったの?」
下から声を掛けられたので、トレイを少し上げてみる。
そこには小学生くらいの、藍色の民族衣装を身に纏った少年と少女が立っていた。
少年は赤銅色の一つ目の巨人――サイクロプスのお面を。
少女は妙に目つきの悪いタヌキのようなお面を付けていた。
どちらも自分達で作ったのか、少し味わい深いデザインになっている。
「ちょっとご飯食べたくてな。どっかに良い所ないかな」
俺はその場でしゃがみ、子供達に聞いてみる。
すると子供達の口元が笑みを浮かべる。
「それならいい所あるよ」
「こっちこっち」
俺は子供達に連れられ、祭りの中心部――大きな社のある所へと連れてこられた。
他にも祭りの参加者が、その社を囲うように置いてあるテーブルで食事をしているようだ。
俺はその1つに腰を掛けると、子供達も空いた席に座った。
「ねぇねぇおじさんは外の人だよね」
「何買って来たの? 見せて見せて」
当然のように質問責めをしてくるので、俺は2人の前に硬貨を数枚置いた。
「ここ案内してくれてありがとう。これでなんでも好きなもの買って来なさい」
「え、いいの?」
「わーい」
よし。これでしばらく時間は稼げるはずだ。
テーブルの上には屋台で購入してきた料理が並んでいる。
麦酒の入った木製ジョッキ。
厚めの焼いた生地にソーセージと薄緑色の野菜が細かく刻まれて挟まれたモノ(ホットドッグに近い)
甘い匂いのするマンドラゴラの甘露焼き(何故か人の顔に見える気がするが気のせいだろう)
ハーピーの卵を使ったフワフワ焼き(これを翼の生えた店主が作っていた)
牧場ドラゴンのテールステーキ(ドラゴンって飼育されているのか?)
「まずはこのホットドッグっぽいものから……いただきます」
大きく口を開け被り付くとまずはふわっとした生地が舌に当たる。
香ばしい生地に歯を立て、一気にソーセージごと食い千切る。
「ほふ――」
塩味の強いソーセージと、一夜漬けの酸っぱい野菜、ピリ辛のソースが口の中で混ざり合う。
このソーセージには他にもハーブか何か入っているのだろうか。後から独特の香りと染み出て来る肉汁……そこへ麦酒を注ぎこむ。
「ぷはぁ――美味い」
次はテールステーキだ。
しっかり焼いてあるのだが、それでも若干白っぽい肉質だ。生焼けでは無いらしい。
ドラゴンと聞けば俺でも知っているほどにメジャーなファンタジーの生き物だが、目の前のコレはドラゴンの尻尾を輪切りにした肉だ。少し厚めの皮も付いている。中央には骨が入っており、加食部分はそこまで多くない。
あと屋台で出している為かそれほど大きくもない。それとも飼育されているドラゴンなので小さい種類なのだろうか?
硬そうにも思えるが、渡されたナイフとフォークで切ってみると……予想に反してスッと切れてしまった。
脂肪の付いた皮はゼラチン質が多く含まれるのかプルプルと震え、肉も香ばしい匂いが食欲を誘う。
それらを1口に切り分け、口へと運ぶ。
「うん……少し噛み応えのあるけど、美味い」
肉本体は少し淡白で、鶏肉と白身魚を合わせたような味がする。しかし皮が美味い。
パリっとしていて脂肪のゼラチンが口の中で溶ける。
肉と合わせると濃厚なシチューを味わっているかのようだ。
次の料理に行く前に、麦酒で洗い流す。
「あーおじさんもう食べてるー」
「わたし果物の飴にしたよー」
「ボクはマンドラゴラー」
もう帰って来てしまったか。
というかそのまま帰ってくれても良かったんだけど。
「あっ、そろそろ始まりそう」
「なにが?」
「お祭りのメインイベントだよ」
少年がそう言うと、中央の社にお面を付けた神官のような人達が、肉や魚などの食べ物をたくさん運んでいる。
よく社を見ると、それは屋台と同じような即席で出来た簡易なものにも見える。
「あそこの社に、天に捧げる料理やお菓子をお供えするんだよ」
「それを社ごと燃やして、天にいる神様に、供物を食べてねーって送るんだって」
「へぇ……」
日本でも火を使った祭りはある。死者の魂を送る、浄化する、根性試しをするなど色々とある。
異世界でもそういう文化の繋がりが見られたのは貴重かもしれない。
「でも天にいる神達も可哀そうだよねー。降りてくればこうやって食べれるんだし」
「おじさんみたいに御馳走してくれる人、大好きだよ!」
「ははっ。そりゃどうも」
マンドラゴラを齧りながら――人参とリンゴの中間のような甘い味がする――生返事をする。
「ねぇおじさん。神の国に行ってみたいと思う?」
「神の国ねぇ……興味は無いな」
「どうして? 一生遊んで暮らせるのに?」
「いや。わざわざ送って貰わないと料理が食べれないのは、詰まらないぞ」
甘露焼きを食べ切り、酒を飲み干すと――俺は言った。
「美味しいモノがあるなら、俺はどこへでも行くけど……でも、自分の足で探しに行きたいな。それが醍醐味だから」
「おじさん御馳走様でした」
「そっかー、分かったよ」
パチパチッ――。
中央では神官達が燃え盛る松明を、社に並べていき――小さな火と煙が天へと昇っていく。
それはどこか幻想的にも見え、ふと目の前のテーブルに目をやると――子供達の姿は無かった。
そして、俺が楽しみに取っておいたフワフワ焼きを持って行かれた。
「あの悪ガキ共め……」
これは代金だと言わんばかりに、お面を2枚置いて行ったみたいだ。
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