異世界への鍵を持つ者達16
”今まで食べた料理は全て血肉となり、記憶となり――ヌシらの身体の内にある”
俺はあの言葉を、再び思い出していた――。
芝田は言った。
欲しいモノの場所への扉を開ける鍵で、欲しいモノの姿への扉が開いたと。
それならば、 俺の食べたいモノの場所への扉を開ける鍵は――。
「な、ななな――なんだぁ!?」
「コカトリス!?」
食べたモノの姿への扉を開けたようだ。
◇
(と言っても、自分の姿がどうなったか分からん――)
どう見ても芝田や他の男達がこちらを見上げているので、俺の背丈はかなり大きくなったようだ。
両手を見てみると、カギ爪のような手が見える――足も同様だ。太陽に照らされて地面に浮かぶ影を見ると、翼のようものが生えているのが分かる。
先ほどの男の言葉のままなら、俺は今――コカトリスに近い姿へとなっているらしい。
(尻尾は……)
少しだけ身体をくねらせると、蛇と目が合ってしまった。
これは俺なのか、それとも他の意識があるのかちょっと分からないので、軽く会釈だけする。
蛇も会釈して、視界から消える――。
(まぁいいか――羽は、動かすと浮くんだろうか)
試しに羽ばたいてみると――。
「と、飛び出したぞコイツ!?」
(――これが飛ぶ感覚なのか)
人間が翼のある生物のような羽の動かし方が分かるはずも無いのだが――これも食べてきた魔獣の記憶か何かだろうか。
「撃て、撃ちなさい!」
芝田の号令と共に、部下達が一斉にこちらへ銃を乱射してくる――。
流石に当たれば痛いじゃすまない。多分。
大急ぎで旋回して回避し、逃げようとする芝田の背中をしっかりと足で掴む。
トンビやワシが獲物を掴むのは、こういう感覚なのだろうか。
「待て、シバタさんに当たる!」
「こ、こら! 離しな――ぐぇ」
俺はその声を無視して、空高く舞い上がる。
全身に受ける風は思ったより心地よく――少しだけ上の方まで飛び上がってしまった。
そのせいで芝田が気絶したようだが、騒がれて落ちてしまうよりマシだろう。
俺はそのまま、ブリの方へと飛んでいく。
「ブぎょぎょぎょッ!」
奇怪な叫び声をあげるブリがこちらの気配に気づいたのか、こちらへ振り向く――そして、そのまま裏拳を放ってきた。
あるいは飼い主である芝田を取り戻そうとしたのか――そのまま食らえば飼い主ごと河に落ちてしまうが。
(あぶなッ)
寸前のところで身体を捻って避ける。
そのせいで少し芝田が拳に当たって衣服が破けてしまったが――死ぬよりはマシだろう。
(さて、確かコカトリスの能力は――石化ガスだったな)
羽柴はこの世界の食べ物は気味悪がって食べたがらず、その料理を食べる俺を奇異な目で見ていた。
だが俺も自分が食べている食材については、最近は単純な好奇心から個人的に調べたりとしている。
例えば、いつもラーメンのスープ。これに使われているコカトリスは、オーガの経営する牧場で育てられる。
ヒナの段階から風の魔石を削ったモノをエサに混ぜる事で、石化のガスを溜める内臓を委縮させているのだとか――。
(俺が普段から食べているのは牧場のコカトリスだから、石化ガスは出せるんだろうか?)
「ブぎゃッ!!」
「くえぇぇえええ!!」
再びブリの拳が迫ってくる。
俺は口を大きく開け、ガスを吐くイメージのままに“何か”を出した。
ブァッとその灰色の煙は口から出て――それに覆われた拳は、石へと変貌していた。
「ブぎょっ!?」
(上手くいった!)
その調子でブリの周囲を旋回するように飛び、どんどん手や足へと石化ガスを吐いていく。
「ブ、ぎょ、ぎょ――」
両手両足を封じられ、ブリはそのまま身動きが取れなくなっていく。
「――はっ、ここはどこだ」
そんな中、芝田が目を覚ましたようだ。
そこで俺は、ブリへの命令を取り消すように言おうとしたのだが、
「くぇ、くえ、くえええ!」
「ヒッ!? な、なんだ!?」
(しまった――鳥は喋れないのか……?)
前に会った不死鳥はともかく、コカトリスは喋ったりはしないから当然と言えば当然か。
「そこに居るのはブリタウロスか!? わ、わたくしを助けろ!」
「ブぎょぎょ!」
ブリのその濁った瞳が光り、黒いビームが2本――こちらへと飛んで来る。
もちろん足には掴んだ芝田が居る。
「くぇ!」
「危なッ!?」
これも回避には成功したが、向こうは飼い主が居てもお構いなしのようだ。
「ぎょっ、ぎょっ、ぎょぎょ!!」
「こ、こら! わたくしまで狙うんじゃない!」
向こうは身動きが取れないのだから、これしか方法が無いのだろう。
とはいえこちらも何か出来る訳じゃないので、逃げ回るしかない。
いずれは向こうも疲れて攻撃は止むだろうが――。
「お、おい! なんだあのコカトリスは!?」
「魔獣が同士討ちしてるのか?」
先ほどは後退していた騎士団が、こちらの異変に気付いて再度前進して来たのだろう。
「あっ騎士団の方々! わたくしは魔獣に攫われた善良な国民です――た、たすけ――」
こいつはどの口が言うのだろうか。
しかしマズい。傍から見れば、確かに魔獣同士の戦いに巻き込まれた一般人のように見えなくもない。
奴の自慢のスーツ姿もボロボロになり、まるで襲われたようにも見える。
「あれも魔王の下僕なのか!?」
「すぐに攻撃と奪還の準備を――」
『待って下さい!』
魔法によって拡大された声は、アグリさんだった。
河岸には、向こうでトラックに乗り合わせて来たのだろうアグリさんとモナカの姿があった。
『第5騎士団、第3騎士団の皆さん。その男は、危険な武器や魔獣を密輸入した商人です。すぐに拘束して下さい!』
「アグリの野郎が!」
芝田が何か悔しがっているが、こちらもまだブリからの攻撃を避けるのに必死だ。
「あれはアグリ様か! いつこちらに来られたんだ……」
「魔法師部隊、攻撃は中止だ! 中止!」
杖を持った人達が武器を下げたのを見てから、俺は河岸に降りると、芝田を放り捨てるように騎士団の前に差し出した。
「ぐえっ」
芝田は頭かあ地面へと落ちるが、まぁ大丈夫だろう。
しかし、まだブリの標的は俺だ。
すぐに飛び立ち、河の中央まで躍り出る。
「ブぎょッ!」
手足が石化の影響でもげたのか、身軽になったブリは河を泳いでこっちまで迫ってきた。
魚本来の姿だが、ここは淡水。まともに泳げるのだろうか?
(なんて言ってる場合じゃないな)
このままだと向こうの河岸のアグリさんやモナカまで危なくなる。上流か下流へと誘導するか――。
「ぎょぎょッ!!」
そんな考えをしていたからだろう。対応が遅れてしまった。
ブリが川底に尾を打ち付けたのか、飛んでいる俺よりも遥か高くまで飛び跳ね――そのギザギザした歯のついた大口で、俺を食べようと大口を開けていた。
「――させません」
気付けば、俺の背中に誰かが乗っていた。
「そのまま魚へ向かって飛んでください」
俺は言われるがまま、その場で旋回してブリへと突っ込んだ。
「セイクリッド――」
その大口の中へと突っ込んでしまうが、構わず前へと進む。
そう、彼女の事を信じて――。
「ストライクッ!!」
光り輝く美しい斬撃が、ブリの身体を内側から真っ二つに斬ったのだった。
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