第24話
異世界の魔法図書館へ行く1
「ふと思ったんだけどさぁ……アタシらが普段行ってる場所って異世界じゃん」
「――そうですね」
ガタンゴトン――と電車に揺られる。
電車は地下から地上へと出てきて、窓からは真っ赤な西日が入り――他の乗客が眩しそうに備え付けのカーテンを閉める。
もう時刻は夕方――俺とモナカ、隣でつり革を持ちながらウトウトしている村上の3人はこれから帰社してから報告書を作成し、それを済ませて少しの残業を行い――ようやく帰る事ができる。
周りを見渡せば、もう仕事を終えて帰宅しているのか、自分達と同じでこれから帰社するのか――他のサラリーマンやOL。新品のブレザーを着ている男子高校生などが虚ろに立っている。
皆、新年度から色々と忙しいのだろうか。
「――生で魔法使ってるところ、見てみたいなぁ」
「魔法……」
前にアグリさんが身体強化や水上歩行魔法を使っているのを見た事があるが、どちらかと言えば週刊少年バトル漫画の使い方である。
彼女が言っているのは、
「ルーモス! ってやって灯り付けたり、インセンディオって炎出したり――そんなやつ」
「それ、なんです?」
「超有名な魔法使いの小説だったり、映画だったりする、アレだよ」
「アレか……」
さすがの俺も思い当たるくらいには有名な作品だ。
そう言われると――確かに魔法をハッキリと使っている場面はあまり見た事が無い――オルディンが魚を圧縮していた魔法くらいか。
魔石や魔道具を起動させるのも手をかざしているだけだし、杖を持って呪文を唱えて――みたいなのは記憶に無い。
「せっかくだし、ちょっとそういうの無いか聞きに行ってみるか」
「……仕事、終わってからにして下さい」
ガタンゴトン――と電車は音を鳴らし、車掌によって次の停車駅名が告げられた。
◇
「え? 魔法ですかい?」
油そば屋で注文をした時に、丁度こっちへ戻ってきていたガンドルへと聞いてみる。
大将の店もそうだが、こちらも客の陰りなく連日飯時には行列が出来ているほどだ。
ちなみに俺達の来店は残業の関係で大分遅くなったので、すんなりと中へ入れた。
「ひゃー、相変わらずイイ身体してんなーアランよー」
「姐さん、ちょっと。ここ人前ですよ」
獅子獣人の店員へとよじ登り、その毛並みと引き締まった肉体を楽しんでいるモナカはさておき――。
「ええ。そういえば呪文とか使って魔法を出している人って、あまり見た事が無くて……」
「そりゃ聞く相手が間違ってるぜ、オダナカさんよ」
「そうなんです?」
「オーガが、そんな緻密な魔力コントールが出来ると思うか?」
手先が不器用だという話は聞いた事があるが、やはり魔力コントロールとやらも器用さが必要なのだろうか。
「身体強化は、自分の延長線上にあるからなんとか出来るが――呪文を唱えて魔法ってなると、やっぱ魔法師だよなぁ……騎士団が抱えてるんじゃないか?」
◇
「オダナカ殿!」
さすがにもう遅かったので、次の日の晩。
今度は大将のラーメン屋の前で張っていたら、首尾よくアグリさんに出会えた。
今日は普通に食べに来たのか、簡素な上着に薄茶色のズボン、ベージュの帽子と一見すれば少年のようにも見える服装だ。
「と……モナカ殿。どうしたんですか?」
「なんだい、アタシが居たら悪いってのかい」
「いえいえとんでもない!」
モナカのその言葉に、ブンブンと両手を振って否定するアグリさん。
まぁ前回の祭りでは大将のライバル店側に居た人間だし、確かに心象は良くないかもしれないが――アグリさんがそういうのを気にするとは珍しい。
「少しだけお話を聞きたいんですが――」
「魔法師ってのは、おたくの騎士団に所属してるのかい?」
「魔法師の方ですか? もちろん在籍していますよ。暴れ魔獣の討伐する時などは、後衛で支援を行ってくれています」
「じゃあ――」
モナカが実際に魔法を使っているところを見たいと言うと、両手を合わせて謝ってきた。
「すいません! それは出来ないんです!」
「えー」
魔法師の扱う魔法は簡易的なモノでも強力で、基本訓練場か野外の戦いで、なおかつ騎士団以外の民間人が居ない場所でないと使用の許可が下りないという。
「逆に見たくなってきたな――そんなに凄いんだ、攻撃魔法って」
「なんだか銃みたいな扱いですね」
「攻撃魔法に限らず、他の魔法でも使用申請して許可証を発行しないと民間人に対してはみだりに使ってはならぬという昔からの法律でして……」
そう頭を下げられては、モナカも強く出れず――。
「まぁ、しょうがないよな……」
ひとまず彼女の前ではしおらしく引いたのだが。
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