お頭と回転寿司を食べる3
回転寿司店からの帰り道――。
昼過ぎにもなると風が出てきた。天気はいいが、やはり冬の大通りは風がよく吹き抜ける。
「いやぁ。食った食った」
「1人で30皿くらい食べてましたね……」
メニューにある寿司を片っ端から頼んでいたお頭。
その度に店員さんを捕まえて色々と聞いていたが、俺も途中で気にするのを辞めた。
「いやぁ、しかしこっちの世界はすげーな。料理はテーブルの上を回ってるし、料理人は親切に教えてくれたし……来ている客も凄い多かったな。子供連れとか――」
「……お頭さん?」
彼は立ち止まり、空を見上げた。
雲の無い、冬の青空。それは清々しい程に青く、お頭の表情のようだった。
「――俺、出したい店の方向性が見つかった気がする」
「そうなんですか?」
「店は色々と考えてたんだけどな……やっぱ、色んな奴らに食って貰いたいって思ったんだよ」
「さっきの回転寿司屋さんみたいな?」
「ああ。あの店でスシを食ってた子供の顔、楽しそうだったろ?」
実はというとそこまで見ては居ないのだが、話のコシを折りそうなので同意しておく。
「そうでしたね」
「アレを見て、昔を思い出したんだ――俺がオヤジに拾われて、最初に食べた料理の時の事……」
「先代さんとは血の繋がりが無かったんですね」
「まぁ大事なのは血じゃなくて、ここだけどな」
胸を握った拳で叩くお頭。
「オヤジも大概料理作るのが好きでな……あの時の味わった魚料理、すげぇ美味かった」
「その方は、今どうして――」
「知らねぇんだわ」
「え?」
「海賊やってた時に騎士団の水軍に負けて、再編成された時には――次の頭領は俺だって手紙だけ残して、どっかに行っちまいやがった」
「じゃあ、今もどこかで料理を作ってるんでしょうか」
「それも分かんねぇけど……いつかオヤジが帰って来た時に、俺の料理を食わせてやるんだ。どうだ俺の方が美味いだろって」
「……」
「大人も子供も笑顔にする料理屋――それが俺の目指す店だ」
「それは、いいですね」
「おっと、それでな――とりあえずショウユとワサビ、コメをたくさん買って戻りてぇんだけど」
「では、正月からやっているスーパー探しましょうか」
俺はスマホを取り出し、検索をかけるのだった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
それから2か月後の――3月上旬。
「オダナカさん。こちらがウチのお頭の新しい店でさぁ」
青いバンダナを巻いた大男のハンスに連れられ、俺は海賊の町からほど近い町へとやってきていた。
ここは港町からも他の町や村からも程ほどに近く、市場や住んでいる人達も多い。
新しく色んな人達に向けた店を作りたい――そんなお頭の希望に叶う立地だと思う。
店の看板には『カイテンスシ ジョニー・キッド』という名と、入口には藍色の
しかし、その名前に見覚えは無かった。
「――ジョニーキッドって誰です」
「お頭の名前です」
ここで明らかになるお頭の名前。
「先代がジョージだったので、そこから名前を貰って名付けたらしいですよ」
「へぇ……では、入って見ましょうか」
ガラガラ――。
日本の戸のようなデザインのドアを横へスライドして入ると――。
「へいらっしゃい! カイテンスシへようこそ!」
威勢の良いマッチョな店員の掛け声と共に出迎えられたのだが、それより気になるモノが目に入る。
寿司が回っている。
いやここは回転寿司の店なのだから、回転しているのは当たり前の話なのだが――寿司の入った入れ物が、まるでジェットコースターのようにレーンを回転しているのだ。
「おーオダナカさん、来てくれたか!」
「今日はお招き頂きありがとうございます……ご盛況のようで」
店はそれほど大きい訳ではないが、それでもテーブル席とカウンター席はほぼ満席だ。
カウンター席に1つだけ“予約席”と書いた札が置かれている。アレが俺の席だろう。
「アレから店作りとスシ開発に忙しくてな。顔出せなかったけど、コメや酒、調味料の仕入れありがとうな」
「いえいえ……」
お頭――ジョニーとの会話も若干頭に入って来ない。
目の前には石で出来た水路のようなものがある。その中を水が一方向に流れているようだ。流れるプールのように寿司の入った入れ物が回転していく――。
そしてもう1つ違うレーンもある。
こちらは入れ物をセットすると勢いよく射出され、ジェットコースターの回転レーンのように寿司が回り、テーブル席へと届く仕組みのようだ。詳細は分からない。
他のレーンでも観覧車のようなモノ、メリーゴーランドのようなモノまであるのが見える。
多分俺の部屋で、テレビでやっていた遊園地のCMでも見たのだろうか――自由が過ぎる。
かつて俺に寿司のうんちくを語っていた彼が見たら、卒倒しそうだ。
「いやー回転するんだったら、もっとハデな方がいいだろ? これが名物になって、結構子供も来てくれるんだよ」
「はは……」
よく海外の寿司を紹介するテレビ番組があるが、これを見せたらなんと言われるだろうか。
――いや、案外話題にはなりそうだ。
「よーし。とりあえず座ってくれ。今日のオススメは魚卵の海賊船巻き、オオグロのショウユ漬けだぜ」
「では、そのオススメと他にも適当に握って下さい」
「かしこまりましたッ!」
ジョニーの威勢の良い掛け声に、若干圧倒されながらも――その楽しそうな笑顔は、最高のネタに思えた。
「――では、いただきます」
お気に入りの店が、また1つ増えたのだった。
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