異世界への鍵を持つ者達13

「……そろそろ追いつきそうだな――」


 森の中には組織が作ったであろういくつかの広い道がある。トラック用に造ったのだろうが、舗装も無しの土むき出しなデコボコとした粗末の作りだ。

 ついにモナカ達が逃げている道へと合流し、さらにアクセルを踏み込む。

 真横を海産物達が走っているのだが――エビはともかく、ウナギはどうやってその速度で走っているのだろうか。しかし確かめるには危険すぎる。


「――ん?」

「こえぇえええよぉおおお!?」

「なんでボクまで付き合わされてるんでしたっけ!?」


 トラックの荷台には、モナカが着ていたのと似た色の作業服を着ているガンドルと、獅子獣人の店員が半べそになりながら大きなツボを持って震えていた。

 その大きなツボは素焼きの粗忽なデザインだが――その口から、煙のようなものが漏れ出ている。 

 

「もしかして、カスミか」


 漂ってくるのはカレーの匂いだが――もしかすると、魔獣達には好物のエサの匂いに感じ取ってる可能性がある。


「モナカ!」


 逃げているトラックの右側まで辿り着くと、並走させ、窓を開けて向こうの運転席へ呼びかける。

 

「せ、先輩か!? ちょっと今忙しいから、後にしてくれよ!」

「伝言は届けましたか!?」

「――あん? 届けたけど、見せても『ありがとうございます。確かに確認しました』ってだけで、特になんのリアクションも無かったぞ!」

「届けたんだったら、いいんです。今からあの魔獣を止めるので、一旦トラック停めてカスミもフタをして貰って――」

「え、なんだって!?」


 もう少し寄らないと上手く聞こえないか――と、思案しているところへ、


「うなぁああ!」

「エビィィッ!」


 海産物達がさらに速度を上げて、モナカ達のトラックの荷台にあるツボへ目掛けて突進をしてくる。


「くッ!」

「ひゃあ!?」 

「「うわぁあああッ!?」」


 咄嗟にハンドルを左へと切り、向こうのトラックの側面へ思いっきりぶつける。

 その拍子に進路は逸れ、木々のある森の中へと突っ込み――。


「きゃあ!?」


 なんとか向こうも急ブレーキが間に合い、木に正面衝突する前に止まれたようだ。

 急いでトラックを降りて荷台を確認すると、2人は投げ出されはしないもののツボが割れて中身のカスミが全部霧散している。


「痛ぇ……」

「あれ、生きてる――?」


 気絶もしていないようだし、ケガも無いようだ。


「うな?」

「エビ?」


 海産物達は互いに顔を見合わせ、獲物と匂いが急に途絶えた事を不思議に思っているようだ。

 この間にスマホを取り出し、アプリの中身を確認する。

 どうやらこのアプリは録音アプリのようで、いくつかの音声データが入っているようだ。

 『町へ突撃用』『わたくしの下へ帰ってくる用』『その場で待機用』と名前付けがされている。


「いたた……先輩?」

「これで――」


 俺は『わたくしの下へ帰ってくる用』の音声を、スピーカーを最大にして再生する。

 これで少しは時間が稼げるかもしれない――そう思ったのだが、


『さぁ、あの町へ突撃するのですよ!!』


 スマホから発せられた突撃命令により、

 

「うなっ!」

「エビッ!」


 海産物の2匹は、再び町のある方向へと走り出したのだった――。


「なにやってんだよ先輩!」

「しまった……やられた」


 芝田は、予めこの事を予見していた。

 自分の監視が届かない場所でなら、あるいはアプリを使わない可能性もある――なので、こうしてフェイクの名前を付ける事で俺にこの音声データを再生させたのだ。


「今、マスターが事情を話して町の連中を逃がしているんだけど――まだ全然時間足んねーよ!」

「羽柴もまだ牢獄に囚われているはずです――助けに行かないと」


 しかし2台のトラックは根っこやぬかるみにハマり、ちょっとやそっとじゃ脱出できなさそうだ。


「ガンドルさんと、そこの獣人の君!」

「ア、アランです……」

「アラン君。トラックを動かすから、少し手伝ってくれ!」

「わ、分かりました……」

「いやぁ、割とあっちこっち身体打ってて痛いんだけど――」

「うるせぇ! あの町の連中が危ねぇんだよ!」

「わ、分かったよ」


 などと言い合っている間にも海産物達は町の方向へと向かっていて――。


「あれ? なんだ?」

「おいアラン。お前も手伝えって――」

「いや店長。あそこ、なにか飛んでませんか?」


 そう言われ、俺もアランの見ている方向の空を見る。

 それは蒼穹の空へ浮かぶ雲に紛れるほど小さく白い――翼の生えた白馬、ペガサスだった。


 そして、そのペガサスから光輝く“彼女”が、高速で落下していくのが見えた。

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