異世界への鍵を持つ者達18
酒場の中は、過去一の盛り上がりを見せていた。
巨大魔獣を倒した事により、逃げていた町の人達はここへ戻ってきていたのだ。
逃げ出したところで帰る場所もない――マスターの言葉である。
「今日は俺の奢りだ。どんどん食べてくれ!」
「おぉー……ってカレーうどんかよ!」
テーブルの上にはマスター得意のマモノカツ乗せカレーうどんや、備蓄してあったスナック菓子やレトルト食品などが並べられ、皆それをツマミにして自由気ままに酒を飲んでいる。
ちなみに俺の姿は――元へと戻った。
ただまぁその場で戻った訳なので――モナカには叫ばれ、アグリさんは目線を隠しながらスーツの切れ端を渡してくれた。
ひとまず切れ端を腰に巻いていたのだが、この町に着いた時点で服を貸して貰った。
カルロス少年もすぐにどこかへ飛んで行き――俺達はトラックに揺られ、あの本拠地である町へと戻って来たのだった。
「いやー。オレもどうなるかと思ってたけどオダナカ。いや、オダナカさんのおかげでなんとか命拾いしたみたいだな!」
「羽柴も――元気そうで何よりだな」
「あいつも捕まったけど……やっぱ死刑とかになったりするんだろうか」
魔王を騙り魔獣をけしかけたり、捕虜を先導して破壊活動や強盗事件を行った主導者ともなれば――長い長い取り調べの後、投獄されその先は――。
「それは――」
「いや、言わなくていい。それもこれも全部、あいつの自業自得だからな」
仲違いしたとはいえ、共に異世界へ来る事になり――短くない時間を共に過ごした元相棒だ。
なんらかの思うところはあって当然だろう。
「このウナギって生き物、どうやって食えばいいだ!?」
「エビって奴も、これ食べて大丈夫なんです!?」
「おっ。ちょっと待ちな。オレがちょっと焼いてやるよ」
ガンドルとアラン君が外で叫んでいるのを聞きつけ、羽柴は外へと出て行った。
「――私の対応が遅れて、申し訳ありませんでした」
「アグリさんは迅速に動いてくれました。そんな顔をしないでください」
「オダナカ殿……」
「というより、騎士団辞めて大丈夫だったんですか? お父さんのような立派な騎士になると、あれだけ言っていたのに」
「えぇ、それは大丈夫です――後でレオには怒られるでしょうけど……騎士団へは復職制度というのがあって――」
ケガや病気、その他の都合などやむなく退職した騎士が、すぐにでも現職に復帰できるよう王子が作った制度らしい。
その制度を使えば、色々と審査などに時間が掛かるが――1か月後くらいには復帰できるようだ。
もちろん元の役職へは戻れないだろう――ここの捕虜達を助ける為とはいえ、無茶な事をやらせてしまいこちらとしても申し訳ない。
「騎士団長、だったんですね」
「言ってなかったですよね……まぁもう元団長ですけど」
「アグリさん――その、今回は本当に申し訳……」
「……」
「……ありがとうございました」
「いえ――ちゃんと約束通り、今度は私に付き合って町の料理屋さん、食べに行きましょうね!」
あの手帳には、ここには魔王国との戦争で捕まっている捕虜達の町がある事。その捕虜が扇動され、魔王国で強盗行為などをやらされている事。
あと、今回の一件が片付いたら、俺はアグリさんの言う事をなんでも聞く――そう書いておいたのだ。
やはり彼女は騎士という立場から、ここの捕虜を見捨てるという事は出来なかったのだ――彼女の良心を利用したみたいで心苦しい。
なので、こうして俺に出来る範囲でならなんでもやるつもりだ。
「もちろん。あっ、なんならみんなで――」
「……」
「じゃあモナカと――」
「……」
「――いえ、2人で食べに行きましょうか」
「はいっ!」
先ほどからたまに無言の圧力を掛けてくるのだが、なんなんだろうか――。
その疑問も――彼女が美味しそうにカレーを食べている姿を見ると、不思議と消えてなくなっていったのだった。
「よーし! ウナギの蒲焼っぽいものできたから、みんな取りに来てくれー!」
「モナカの姐さん! このエビってやつの汁、すげー美味いっすよ!」
俺は“羽柴”との約束通り――ウナギなどの海産物を、たらふく食うのであった。
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