第12話
12月30日
仕事納めも前日に終わったのだが、緊急で用意して欲しい書類があると部長に頼まれ、30日に会社に出社していた。
同じ部署の後輩になる――村上という青年も同じ境遇のようだった。
漏れ聞く所によると、社内の女性社員の中でもカッコイイと評判であるらしいが、そんな彼も少し疲れたような顔をしている。
室内には俺らしか居ない。
「ホント、前もって言って欲しいですよねぇ」
「……そうだな」
文句は言いつつキーボードを打つ手は止まらない。
塗り立てのワックスの匂いが部屋に充満しているが、さすがに寒いので我慢をする。
エアコンの作動音と、キーボードの乾いた音だけが部屋に響く――。
「――そういえば聞きました?」
「何を?」
「来年の4月には竹中部長、他所の部署に転属になるらしいですよ」
「……へぇ」
思えば竹中部長とはよく飲みに突き合わされたり、相談されたり――それなりに付き合いは長い。
大体社長の『責任を任せれる者にはキャリアを積ませる』という考えの下、定期的に部署や支店の異動がある。俺が入社してからも何度かあった。
「それで送別会をやろうって話になってて……まだ先ですけど」
「……ほぉ」
「次の部長って、どんな人が来るんですかねぇ」
「……誰だろうな」
我ながら気の無い返事をしているな――と思う。
そんな雑談をしながらも夕方前には書類も完成し、2人でチェックを行った後に部長にメールの送信をした。
「あー終わった終わった」
「お疲れさん……」
「そういえば小田中さんって、帰りどこか寄ってるんです? なんか女の子の間で、噂になってましたよ」
「噂?」
「なんか偶然帰る所を見つけたらしいですけど、路地裏に入っていくからどこ行ってるんだろうって」
「あぁ……ちょっと、飯屋に行ってるんだよ」
「へぇ。隠れた名店的なです?」
「そんなところだ。電気切るぞ」
「はーい」
会社の前で別れ、俺は駅へと向かう。
「しかし見られていたか……今度から気を付けよう」
一応背後を確認するが、年末の通りは人も少ない。
特に見知っている顔も居なさそうだし、路地へと入っていつものように鍵を取り出し――。
「あれ?」
扉に差し込んで捻ったが――反応が無かった。
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