異世界で喫茶店へ行く2
「毎回思うけど……なんで飲食店から離れた場所に出るんだ……」
一面砂に囲まれたオアシスにある町。家は全部石造りの建物ばかりだ。
ヤシみたいな街路樹と、石畳を馬車が走っている。
風が吹けば砂埃が舞い、空を見上げれば雲ひとつ無い。長袖のシャツ出なければ日焼けで痛い目に合いそうなくらいの日差し。口の中の水分をさらっていくカラッカラの空気。
「エジプトとか行った事無いけど……こんななのかな……」
すれ違う人達はやはりこういう土地柄のせいか、全員全身が隠れるくらいのローブ姿で、顔が分からないくらい深くフードを被っている。
しかし他人を気にしている余裕が、俺には無かった。
白い鍵は、手のひらの上である方向を指す。
その方向に向けて歩くこと十数分。目的地に着いた。
「ここが、喫茶店?」
それは半地下になっている建物で、階段を降りた先にサビの浮いた鉄枠の扉が見える。
扉のプレートに書かれた文字は『OPEN』と読めるので、確かに店なんだろう。
ちなみにこれは鍵の効力なのかは知らないが、こちらの世界の言葉、文字などは全て意識せずとも日本語に読める。
俺が文字を書けば、向こうにも読める。
ただし、日本から持ち込んだモノに書かれた文字は読めない。当然スマホも同様だ。
あくまで俺自身に掛けられた魔法みたいなもんなんだろう。
「暑い……入るか」
カランカラン――。
扉を開けると、そこには年季の入った壁紙やテーブルの並ぶ、薄暗い雰囲気の店だった。
あまり客が入っておらず、カウンターの中ではバーテンダーの格好をした、紺色の毛並みの猫獣人の男性が、グラスを磨いている。
「……いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませニャ!」
店の奥から元気な声でウェイトレスの格好をした、やはり猫獣人の女性が出てきた。
彼女も紺色の毛並みで、バーテンダーとは違い人懐っこい雰囲気がある。
「人族の方なんて珍しいですねー。お好きな席にどうぞ」
道行く人達はフードを深く被っていたが、もしかしてみんな猫獣人だったのだろうか。
客もあまり居ないことだし、端っこの4人掛けのテーブルへ。少し硬めのソファに腰掛け、メニューを開く。
「ふむ……」
◇ ◇ ◇ ◇
・砂漠イチゴのパンケーキ 600ミネー
・サボテンマンのステーキ 700ミネー(パンスープ付きならプラス200)
・魔法のシュワシュワクリームサンデー 750ミネー
・アイスチャティー 400ミネー
◇ ◇ ◇ ◇
他にもいろいろ書いてあるが、少しデザート系に寄っている気もする。
「あっ、すいません」
「はいニャー」
「このシュワシュワクリームサンデー1つと、パンケーキ1つ」
「かしこまりした。マスター、パンケーキ入りましたニャ」
「……まいど」
そう言いながらバーテンダーの彼が厨房へ入っていく。彼がマスターだったか。
カランカラン――。
「いらっしゃいませニャ」
「はー今日も疲れたわー」
「ニャー。あの先生、ちょっと厳しすぎなんですけどー」
「ウェイトレスさん。ひとまずアイスチャティー下さいニャ」
さっきまで静かな雰囲気だった店内はすぐにかしましくなった。
この近くに学校でもあるのか、ローブを脱いで入ってきたの制服姿の猫獣人ばかりだ。
店の奥からは新しいウェイトレスも出てきて、色々忙しそうだ。
「はいっ。こちら魔法のシュワシュワクリームサンデーと、砂漠イチゴのパンケーキニャ」
円柱の少し分厚いグラスに、炭酸のような泡が見える青色の液体と、星形やハート型のゼリーのようなモノが浮いている。さらに上にはホイップクリームと、白いシャーベットが乗っている。
パンケーキの方はイメージ通り、薄い狐色の丸いホットケーキのような見た目だ。赤く潰れた果実のジャムがたっぷり乗っている。俺の知っているイチゴと違い、少し小さい粒のような形をしている。
「あっ、どうも」
「毎度ありー」
俺はチップをウェイトレスに渡す。
あっちでも海外ならチップを渡すのが普通なように、こちらでもサービスを満足に受けたいならチップを渡すべきだろう。
異世界に来るようになって学んだ事のひとつだ。
「さて……いただきます」
まずはカラカラに渇いた喉を潤す為に、クリームサンデーにストローを差し込み飲んでみる。
炭酸のよく効いた、パイナップルのような酸っぱいジュースは少し喉を刺激する。
「はぁ――よく効く」
冷たい液体が心地良い。さらに少しシャーベットをスプーンで削って食べてみる。
こちらは削った氷にレモンやオレンジのような柑橘系のフルーツを絞ったモノを、シャーベット状に成型したのだろう。
キメ細かい氷が下の上でサラっと溶け、これも外の猛暑の中を歩いてきた身体に染み渡っていく。
「……冷めない内にパンケーキも食べるか」
ジュースで身体の火照りを少し抑えたので、パンケーキの方も食べていきたい
フォークで抑えるのだが……若干の抵抗を感じるくらいのフワッとした焼き加減だ。
ナイフを入れていくと、上に掛かったジャムのソースが切れ目に沿って流れ込み、パンケーキの断面が赤く染まる。
一口の大きさに切り分けると、俺はそれを頬張った。
「ふっ、むふっ」
まず甘酸っぱいジャムの味が口いっぱいに広がり、次に濃い卵のような味が追撃を仕掛けてくる。
噛む度に2つの味と香りが、交互に口と鼻を抜けていき――満足感が生まれる。
「――美味い」
周りの猫獣人達が、1人でパンケーキを頬張って悦に浸っている俺に向かって何やらヒソヒソと話しているようだが、そんな事は気にならない。
1人で女子高生に交じってクレープ屋に並べるし、焼き肉だろうとファミレスだろうと1人で行っても気にならない。
俺は、食べる事が楽しめればそれでいい。
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