その選択、何を選ぶか2
いつものように路地へと出て、身なりを整える。
色々と忙しい身ではあるが、毎日を生きていれば腹も減る。
そろそろニホンの料理も恋しく感じた為、執務室から抜け出してやってきた訳だが――。
「この店にするか」
その店は、他と比べても一際古く感じる細長い建物の1階部分にあった。
前に食べた事もある店にも掛かっていた
「む?」
店に入ろうとしたところで、店先にメニューが置いてあるのを発見した。
そのページには料理の絵が描かれており、初見でも料理の内容が分かりやすく説明されているようだ。
「なるほど……」
『日替わりAセット:オムライス、漬物、みそ汁(+100円で大盛)』
『日替わりBセット:メンチカツカレーライス、漬物、みそ汁(+100円で大盛)』
右の写真には、黄色と赤の目玉のような料理と、赤紫のテンタクルスの輪切りのようなモノ、濁ったスープが添えられている。
左の写真には、丸い揚げたカツに茶色い液体が掛けられ、下には米が見える。これも先ほどの料理に添えられていたモノが付いている。
「まずライスとはなんだ……」
これを考えるにはまず、Bセットのカレーとやらに着目する。
カツはどう見ても上に乗っている“コレ”だろう。ではこの茶色い液体と米、どちらかがライスであるのは間違いない。
「……ふっ、分かったぞ。名に意味を込めるのがこちらの流儀だったな」
名前の組み合わせだ。
これは上から乗っているモノの順番を表しているのだ。
で、あるならば茶色がカレー、米がライスのはずだ。
「で、あればAセットも同じように読む解くか……」
先ほどのメンチカツカレーライスの順番を考えれば……。
「“オ”が赤いソース、ムが黄色い卵のようなもの。ムで包んである中に、ライスが入っている訳か」
しかし卵の呼び名は様々であるな。
普通に卵と呼ぶ事もあれば、そばに浮かべると“月見”となる。
そうなると、この“ム”という呼び名にもなんらかの意味があるのだろうか――。
「あのぉ、すいません」
店の前で考え込んでいたら、後ろから声を掛けられる。
どうやら自分のせいで店へ入れないようだ。
「失礼したな、人間よ」
「は、はぁ」
それなりの時間を考察だけで使ってしまったようだ……そろそろ決めなくてはならない。
どちらがより食べたい料理なのかを――。
「いらっしゃいませー、おひとり様でしょうか?」
「うむ」
「カウンター席へどうぞー。ご注文はお決まりでしょうか?」
「――うむ。未知の可能性を内包している、Aセットを頼むとしよう」
「はい?」
俺はやってきたオムライスとやらを食べて、こう呟いた。
「嗚呼、美味いな」
◇
「ここがあの店か」
アタシは今、ある定食屋の前に居る。
ここは会社からもそこまで離れていない。得意先の外回りの帰りにここへ寄ったのだ。
理由はもちろん――あの唐揚げ南蛮が美味そうだったからだ。
「あの先輩……ダイエット中だってのにあんな写真送って来やがって……」
事前に情報を集めた結果、唐揚げ南蛮そのものは日替わりメニューだが、唐揚げ自体は単品としてメニューに存在する。
ご飯はどんなものにも合うし、よっぽど酷い店に当たらない限りは美味しいご飯が出てくるだろう――しかし、ダイエットの天敵である。
唐揚げだけでもカロリーオーバーしそうなのに、そこへ炭水化物まで加えてしまっては目も当てられない事になってしまう。
「……唐揚げだけだ。唐揚げだけ食べて帰る……」
そう自分に言い聞かせ、店に入ろうとして――隣にあるメニュー表が目が入ってしまった。
『日替わりAセット:油淋鶏、サラダ、漬物、みそ汁、ご飯(+50円で大盛)』
『日替わりBセット:鮭の塩焼き、冷奴、漬物、みそ汁、ご飯(+50円で大盛)』
Aセットの写真には、あの唐揚げを油淋鶏風にアレンジしてある様が映っている。
(絶対美味しい奴だこれ)
アツアツの唐揚げに、甘酸っぱいソースとネギと唐辛子の細切りをたっぷりと掛けられ――それを一緒くたにして口の中に入れれば、たちまち美味しさのオーバーヒートを起こしてしまうだろう。
そうなれば、ご飯が止まらなくなる――!
ダイエットにおいて、特に炭水化物は気を付けなければならない存在である。
それだけは決して避けなければ――と、ここでメニューの写真の下に、こんな1文が添えられていたのを発見した。
『本日レディースデーにつき、食後のアイスクリームを100円で提供します』
「いらっしゃいませー。ご注文はお決まりでしょうか?」
「Aセットお願いしまーす。あっ、食後のアイスもお願いします!」
アタシは、屈した。
「嗚呼、唐揚げ……美味いなぁ……」
だけど後悔は無い――晩御飯は、炭酸水だけ飲むとしよう。
アタシは、そう心に固く誓ったのだった。
サラリーマン、異世界で飯を食べる ゆめのマタグラ @wahuu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。サラリーマン、異世界で飯を食べる の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます