魔王、コンビニへ行く2

 自室へと戻った俺は、早速買った食料品を並べていく。


 ◇ ◇ ◇

 

・オニギリ6つ(ウメ、コンブ、ツナマヨ、タカナ、からあげ、オムライス)

・チェリソーソーセージ(3本入り)

・シーザーサラダ

・チュウカそば

・からナゲボックス(6個入り)

・きんぴらごぼう

・ヒロシマフウ、ブタタマ(大サイズ)

・ざるそば(おいなり付き)

・ウーロン茶

・天然の水

・デカ盛ラーメン(醤油味)

・プリン(丼サイズ)

・デンシレンジ(1000W対応らしいが意味は不明)

・デンキポット(1リットルだと説明された。意味は不明だ)

・黄の魔石用コネクター(これを買えとオーヤに言われたのだ) 

 

 ◇ ◇ ◇

 

「少々、買い過ぎたか――」


 しかもよく見ればデカ盛ラーメン、チュウカそばと名前が違うが、中身は似たよなモノに見える。

 ざるそば、ブタタマとやらにも麺が入っている――かなり麺が被った。


「まずはチュウカそばを頂くとするか――」


 少し温くなってしまったので、早速デンシレンジで温め直すとする。

 まず魔石の入った箱の穴に、このレンジ側の角を差す――そして、チュウカソバを中に入れ、店員から聞いた通りの順番で押していく。

 

 ブーン――。


 中でチュウカソバが明かりに照らされ、回転しているのが見える。

 

「どのような仕組みなのだ……」


 チーン。


「確かに温かくなっておるな」


 やはり火の魔石がどこかに仕込んであるのだろうか……。


「では改めて――いただきます」


 食べる前に両手を合わせて食す――オダナカが毎回やっている事だ。

 それはどんな意味があるのかと尋ねると、


『そうですね……食事とは命を頂く行為なので、感謝の気持ちを忘れないように――といった意味合いがあります』


 いつも料理を食べていく上で、考えもしなかったが、言われて見ればその通りだ。

 魔獣にしても野菜にしても、食材となり料理となった者達にはすべからず敬意を払うべきだろう――。


「この透明なフタを取ると――おぉ、良い匂いだ」


 琥珀のように濃い色のスープに入った黄色いちぢれた麺。

 その上には半透明の細長い野菜(モヤシ)、薄めの茶色い肉片(チャーシュー)、半割のスープのように濃い色をしたゆで卵。さらに細かい緑の輪っか(ネギ)が散らされている。

 湯気と共に上がってくる香りは――なんらかの鳥のようだ。コカトリスより柔らかい匂いだが――。

 

「ずずっ――」

 

 直接器に口を付けて、スープを飲む。


「味も少し軽く、あっさりとしている。これはこれで美味いな――次は」


 袋に入っていた木片をパキッ――と、割れ目に沿って2つに割る。

 これもオダナカが使っていた食器だ。思い起こせば、前にニホンで食べた店でも他の客が使っていたのだ。

 これがニホンにおける標準的な食べる食器なのだろう。

 名前は――そう。ハシと言ったか。

 

「ずるっ、ずるる――ずるっ」


 さすがにまだ上手く扱えないが――なんとかして麺や具材を掴み、逆手で持ちながら口へと運ぶ。


「麺をすするのも上手くなったものだ」


 どの具材もあっさりしたスープによく合うモノだ。

 しかし、あのオーガのラーメンとは性格も方向性も違うので評価を下し難いが、少し物足りなくも感じる。


「ここでオニギリとやらを食べるか――む?」

 

 透明な紙で個別に包装され、さらに中の黒い紙で2重に包装されている。

 表面には『ウメ』と読める文字が入り――よく見れば番号が振ってあるではないか。


「これは……もしや、この手順で無ければ開封できぬ仕組か」


 ダンジョンなどで見られる宝箱の中には単純な鍵だけでなく、魔法的な仕掛けを施してあるモノが存在する。

 謎かけ、決まった手順での解除、宝箱そのものが化物となり襲ってくる――。

 このオニギリもまた、そういった類の仕掛けが施してあるというのか。


「魔法は掛かってないようだが……恐らくはこの手順で無ければ、一生食う事も出来ぬという訳か」


 慎重に『1:下に引く』と書かれた部分を言われた通り下に引っ張る。

 次に真ん中を持ち『2:右へ引く』の通り、角の部分を掴み引っ張る。

 最後に左の『3:左へ引く』の通り、角の部分を掴み引っ張る――。


 びりっ――。


「ぬう……中身の黒い紙が破けてしまったか」


 透明な紙の中へ黒い包み紙が残ってしまった。

 残りのオニギリを包む紙を剝がそうとして、手が止まる。


「――いや、これは包み紙では無いな」


 表面はザラっとしており、匂いを嗅ぐと――何やら嗅いだ事があるような無いような……海に近い匂いがする。


「あそこで食べたオニギリもこのような紙は付いていなかったが……」

 

 恐る恐る黒い紙のみを口へと入れると――これは紙では無いという予想は当たりだ。

 では何かと言われると――正直分からない。海の匂いがするようなので、海産物の何かだろう。


「これと一緒にオニギリを食す、という訳だな」


 食べ物であり、わざわざオニギリと一緒に入れてあるならそうとしか考えられぬ。


「では――」


 一口でオニギリの半分を食べ――咀嚼そしゃくすると、


「むぐっ!?」


 えも言われぬ酸味が口の中を襲う。

 思わず口をすぼませてしまうほどの強烈な酸味だ。


「み、みひゅだ――」


 思わなかったところからの不意打ちに、水を求めて『ウーロン茶』と書かれている柔らかなビンを取り出し――、


「あ、開ひぇ方がわひゃらん」


 仕方がないので、そのままビンの口部分を手刀で切り落とし、茶を一気に咥内こうないへと流し込む。


「ごく、ごく――はぁ……なんという味だ」


 この茶も味わった事が無い、香り高く味も独特だが――やはり気になるのはオニギリの具だ。

 落ち着いた所で、オニギリの断面を見てみると赤い果肉が詰まっていた。

 

「これが正体か……」


 一見すると森にいるアカハナグモにも似た色合いだが――。

 少し指に果肉を付け、舐めると――あの衝撃のような酸味が、再び訪れる。


「――なるほど。なにか強烈に酸味のある果物のジャムか。このようなモノまで具材にするとはな」


 意を決してもう1度、残りのオニギリごと食べる。

 噛む度にあの酸味が襲ってくるが、もう3度目ともなると――慌てるほどではない。


「しかし少し後を引く酸味だ……この果実の詳細を後で調べてみるか」


 残りのチュウカソバのスープを飲み干し、次はチェリソーソーセージの容器を取り出す。

 見た目は魔獣の腸に肉詰めをした料理に似ている――恐らくニホンでも同じ発想をした者が居たのだろう。


「世界は違えど、こうした部分で似るところもある、か……」


 これもデンシレンジで温め――取り出し、フタを取り外す。

 さすがにこれをハシで掴むのは難しいので、フォークで食べる事にする。

 ソーセージの半分ほどを一度に食べる。

 

「――――こ、これは!? おおおお!?」


 先ほどの酸味の次は、鮮烈な辛さが襲ってくるではないか!

 噛むほどに香味と辛味、肉汁と旨味が溢れる――。

 もちろんそれは美味くはあるが!

 

「ごくっ、ごくっ……」


 思っても見なかった攻撃に、再び茶でリセットを試みる。


「――腸詰めはスパイスや血を混ぜ込むとは聞くが、これは辛味を強調したスパイスが入っているのか」


 今度は『ツナマヨ』と書かれたオニギリを手順通りに開封し、万全の体制で臨む。


「――ふむ。落ち着いて食べて見れば、なんとも食欲をそそるではないか――このオニギリも、今度はネットリとした味わい、この白い調味料のせいか」


 ツナもマヨも正体は分からぬが、このチェリソーソーセージと合わすには丁度良い感じに辛味を和らげてくれている。

 しかしこうして食べてみると、少し酒が欲しくなってくるな――。


「ここは厨房の倉庫へ取りにいくべきか――」

「――パパ?」


 テーブルの前で思案していると――いつの間にか自室の扉が開かれ、そこから愛らしい顔を出しているのは――おぉ、我が娘ではないか。

 俺譲りの銀髪と、妻譲りの美しい顔立ち――まだ学校へと通い始めたばかりだが、いずれは世界中が羨む女性に育つだろう。

 俺は部屋から出て、アリエスを抱き上げる――。

 

「アリエス、今日はどうしたんだ? 城に来るとは珍しいな」

「お城のコックさんがお休みだからね、みんな一緒にお外でご飯食べようって」

「――フェリアスさんとネーティアさんも誘って女子会なの」


 赤い絨毯の敷かれた廊下に居たのはアリエスだけでは無い。

 俺の妻にして、魔族の中でも1番美しい吸血姫フーリだ。

 黒いレースを基調とするドレスを好み、その肌が陽に晒さないように帽子を目深く被っている。

 なので、その素顔と柔肌を見るのはベッドの上くらいだが――。


「貴方は、御一人でお楽しみのようですし――」


 扉から見える、テーブルの上の料理を一瞥するフーリ。


「お、おぉ……そうだな」


 慌てて扉を閉める。

 俺が異世界に行き来している事を知っている者はこの魔王国には居ない。

 これは娘や妻にも、秘密なのである。


「じゃあパパ。行ってくるね!」

「明日には戻ってきますので――あっ、そうそう」


 フーリはアリエスの手を引き、出かけようとして――振り返る。


「フェリアスさんとネーティアさんから、人間の祭りに勝手に参加した事、よく聞いておきますので」

「むう……分かった」


 どうやらバレているのはそちらの方だけのようだ。

 2人を見送り、廊下に誰も居なくなった所で――自室へと戻る。


「さて、次はブタタマを温めてみるか――」


  

 あれだけの食べ物を、美味しすぎてその日の内に食べ切ってしまったのは、俺だけの秘密である。

 

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