第23話
魔王、コンビニへ行く1
いつものように扉から出た俺は、周囲を見渡す。
見慣れた路地に人の気配は無く、軽く身なりを整える。
今日はある場所を訪れる為に来訪したのだ。
城の調理担当が急病になってしまい、調理場と食堂が臨時休業となった。
部下や兵士達は、城下町で食事を楽しんでいるようだが――魔王である俺がそこへ乗り込む訳にはいかない。
この間、勝手に祭りに行ったせいでフェリアスにキツく叱られ、しばらくは人類種の国に行くなと厳命されたのだ。
しかし今晩の食料調達は必要であるので、こうしてニホンへとやってきたのだ。
路地を出てすぐ左の大きく細長い建物の、1階部分にその店はあった。
『ファミリア・マート』
以前、こういう店で食べ物を購入する子供を数人見かけたのだ。
金はオーヤを訪ね、換金して来た。
「では、参るか」
建物間近まで近づき――透明な出入り口の壁に手を触れようとしたその瞬間。
テレテテー、テテテテー♪
透明な壁は自動的に開かれ、さらには軽やかな音楽まで流れてくる――。
「いらっしゃいませー」
なんとすぐに店員がこちらへ挨拶までして来るとは……。
俺の姿は魔法で完璧に人間に見えるはずだ。つまり魔王と分かっているはずはない。
「できるな……」
ひとまず備え付けのカゴを持ち、店内の商品を物色する事にする。
商品の文字は読めるが、それがどういう意味をしているモノなのかは分からない。
「少なくとも食品では無さそうだ」
“0.01の薄さを体験”と書かれている箱を棚に戻し、様々な商品を見て回る。
衣類や色とりどりの瓶、見た事も無い商品ばかりだ。
その中で、ようやく見た事のある文字を発見する。
「これは“ラーメン”か! あのバルドというオーガの店のモノとは大きく違うな」
手に持ってみると異様に軽い。それはどのラーメンも同じだ。
そして形状も丼によく似た器から太いグラス型の器、平べったい器まである。そのどれもラーメンのイラストが描かれているのだが、これは中身が入っていないのだろうか。
「よく分からんがひとまず確保しておくか」
この“デカ盛りラーメン”にしておく。醤油味というのも聞いた事は無いが、イラストが美味そうだ。
「あとは……このガラスのショーケースの中に入っているのは……飲み物か」
これも色々と並んでいる。
麦茶、ウーロン茶、ルイボスティー、緑茶――。
ここには茶が並んでいるのだが、他の列にもギッシリと詰まって並べられている。
「……この天然の水とはなんだ。天然以外の水と言えば魔法で出した水だろうが……それも空気中の水を集めたモノだ。この国には天然以外の水が存在するのだろうか」
どれを買えばいいのか分からないので、適当にウーロン茶と天然の水を買う事にする。
そのまま通路を進んでいくと、ついに食料の置いてある棚を発見する。
「……なんだと」
まず目に付いたのは食品が全て個別の袋に入れられている事だ。
例えばこの間の祭りでの屋台でも、商品はその場で袋に入れられるが――これはもっと前もって袋詰めされている。
袋詰めされた状態で陳列されている――どう見ても店内で調理できる量では無い。
そうなれば、どこか他所で作った事になるのだが――これほど大量の食糧をどうやって運搬しているのだろうか。
魔王国最速の竜を使ったとしても、冷凍魔法で凍らせ続けなければ長距離は不可能だ。
「まさか時空を歪めてゲートを? それほどの魔法の使い手が存在するというのか」
しかしこの世界で魔法はまともに使えないはず――謎は深まるばかりだ。
「いや、それより飯の調達だ」
考察は後にする。
まずは見覚えのある品――つまり“オニギリ”を優先する事にした。
「こ、こんなにも種類があるというのか」
昆布、おかか、梅、ツナマヨ、エビマヨ、サーモン、牛しぐれ、ピリ辛高菜、からあげ、チャーハン――。
「いや臆するな。オニギリという料理が、あらゆる可能性を内包できる存在である事は知っていたはずだ……」
これも適当に1種類ずつ、6個をカゴに入れる。
さらに探っていくと、ここにもラーメンがあるではないか。
「名前がチュウカソバ? こちらは中身が入っているが……冷たいな。店で調理し直すというのか」
これもカゴに入れる。
「ほぉ。サラダに関してはそこまで特異な見た目では無いな……シーザーサラダとはなんだ」
カゴに入れる。
「チョリソーソーセージ? 魔獣の腸詰めと何が違うのだ」
これ入れる――それを何回か繰り返すと、カゴの中は一杯になってしまった。
「……まぁ、1回で全部食べる必要はないだろう」
これらを“レジ”とやらで会計を行う。
カゴ一杯の食料に店員も最初は驚いていたようだが、すぐに慣れた手付きで袋へと詰めていく。
「こちらのラーメンやお惣菜は温めますか?」
やはりここで調理を行うのだろうか。総菜と言われた食品は全て調理済みのように見えるのだが――。
「このラーメンだけにしてくれ」
「かしこまりました」
そう言って店員は背後の箱にラーメンを仕舞うと――何かを押した。
何やら数字が表示されているが……。
「店員よ。これは何をする魔道具なのだ」
「えっと……商品を温める電子レンジという機械です」
「なるほど」
火の魔石でも入っているのだろうか。しかし、あれは我が魔力が強大すぎるせいもあるが調理用の火加減が本当に難しかった。
店員が魔力操作を行っている気配は無い……まさか自動で魔力量を調節する道具なのか。
世の中には精霊魔法という、自律型精霊を作り出す魔法を扱う事が得意な種族がいるというのは聞いた事がある――まさかそいつらの魔道具か?
「これはどこへ行けば手に入れられるんだ」
「え? どこって、家電量販店とかネットで買ったりできますけど」
「なるほど……つまり一般人が購入できる魔道具か……」
「ここの通りを真っすぐ、向こうに行くとイーディオンという電気屋がありますよ」
それならば話が早い。
「こちらお熱いのでお気を付けください」
「かたじけない」
俺は両手にある袋を抱えたまま、そのデンキ屋とやらに向かうのであった――。
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