異世界への鍵を持つ者達12
7日目――決行の日、晴れ。
太陽が頂点へと上がる頃。
屋敷から出発した俺と芝田、そして部下の8人は複数のトラックに乗り合わせて森の中の、開けた場所へとやってきていた。
「そのまま引っ張れぇぇ!」
「おぉー!」
森や山に囲まれた町のある場所より少し離れた位置にある場所に、何枚もの板を張り合わせて作った巨大な”扉”が、寝かした状態で地面へと置かれている。
その周囲には丸太で出来た建具の枠が置いてあり、これの組み立てが――今しがた終わったのだ。
さらに扉の取っ手部分に穴が3つ空いてあるノブが取り付けられ、これには長いロープが結ばれている。
「キリトさん。準備は完了しました」
「了解です。ではまずレッドとグリーンは河に到着したら、信号弾を打ち上げをお願いします。騎士団も集まってくると思います。扉を開けますので、その間に例の準備を」
「「はっ!」」
レッドとグリーンと呼ばれた2人はボロボロな軽トラックに乗って走り去った。
この名前は芝田が付けたコードネームらしく、前もって彼らには色の名前が振り分けられている。
ちなみに俺はシルバーらしい。
そこからしばらく他の部下達は周囲の警戒をしつつ待機となり――1時間ほど経ってから、町の方向を監視していた男が声を荒げる。
「キリトさん! 信号弾が、確認できました!」
「いいでしょう――扉を開けます!」
芝田は懐から取り出した黒い鍵を、巨大ドアのノブ部分の穴へと突き刺す。
そして3本同時に――捻る。
「繋がりました。ロープをゆっくり引っ張りなさい!」
「了解!」
ロープはトラックへと結びつけられている。
2台の中型トラックはエンジンを掛け、言われた通りゆっくりと前進。
徐々に扉が開かれ――。
バキッ。
一瞬だけ木が割れるような音がしたかと思うと、
バキバキバキッ――!
まだ扉は3分の2ほどしか開いていないが――それは、扉をぶち破りながら姿を現した。
「うなぁあああああ!!」
「ぶりゃあああああ!!」
「エビィィィィイイイ!!」
超巨大化したウナギ、ブリ、エビが飛び出すように出て来た。
1匹あたりの大きさは分からないが、少なくとも2階建てのビルよりかは大きいだろう。
前に出会ったダンジョンの巨大カニより全然大きい――鳴き声の部分は似ているが。
巨大生物はみんな、こんな鳴き声なのだろうか――。
「これぞ! 魔晶により超進化したわたくしの可愛い海産物達だ!」
「で、でででけぇよシバタさん!」
「初めて見た……」
他の部下達も浮足立っているようだが、芝田は気にする様子もなく解説をしていく。
――誰にしてるのだろうか。
「わたくしは彼らをウナボロス、ブリタウロス、エビーモスと名付けている」
単純にウナギを大きくしたような見た目だが、その黒い身体は長い。少しでも気まぐれで尻尾を振れば、森の木々ごと俺らを吹っ飛ばせるだろう。
エビは元々伊勢エビだったのだろうか。赤黒い甲殻にその巨体を支えるほどの太い足が複数生えており、地面まで届くほどの触覚は獲物を決して逃さないだろう。
ブリは――。
「ぶりぃぃぃぃいい!!」
「おぉブリタウロス。お前は元気がいいなー。よし、ではお前は騎士団の奴らを蹴散らしてこい」
「ぶりゃぁあああ!!!」
芝田に命令され、そのどこを見ているか分からない大きな瞳を輝かせ――ブリは、走った。
その逞しくも太い2本の脚で、華麗に駆けていった。
「……なんで脚が生えているんですか」
「ふむ。太古の昔、海洋生物が進化の過程で陸上へ上がったように――ブリもまた進化すればああなるのは、むしろ当然だろうな」
「……そうですか」
無駄に美脚な足で元気よく走るその後ろ姿は――しばらく夢に出てきそうだ。
「ではウナボロス、エビーモスよ。お前らは、あそこにある町を――滅ぼすのだ!」
「うなぁぁぁああ!!」
「エビィィィイイ!!」
巨大ウナギとエビは、2匹並んで町の方向へと突き進んでいく。
見た目こそ間抜けに見えるが、この巨体だ。町へ突っ込めばどんな被害が出るか――。
「では、わたくしは特等席で町が壊れていく様を見届けて――」
「うなっ!?」
「エビッ!?」
巨大海産物達は、一瞬だけ動きを止めたかと思うと――町へ向かう方向から、少し離れた方向を見ていた。
そして――。
「うなッ!!」
「エビィ!!」
2匹の海産物は方向を変え、何かを追うように前進を始めた。
「なっ、何をしてるんだ!?」
そう叫ぶと芝田は、用意していた双眼鏡で海産物達が追いかけている対象を見るべく、用意していた特等席――高所作業車のバケットへと乗り込む。
すぐに部下にバケットを操作させ、高い位置へと到達する。
「――あれは……モナカと、誰だ。あのオーガとライオン男は!?」
その言葉を聞き、俺は少し胸をなでおろす――どうやらモナカは町へと戻ってきていたようだ。
恐らくガンドルと獅子獣人の店員も居るようだが、まさか彼女に呼び出されたのだろうか。
しかし彼女がここに居るという事は、あの伝言をアグリへ伝えてくれたのだ。
ただ、ここからは見えないが恐らくトラックか何かに乗ってあの海産物達を引き付けているのだろう。
「お前ら、あの女を止めて来い!」
「えっ!? でも――」
「チッ。オダナカさん、仕事です。今からモナカがやっている事を、止めて来なさい」
「……」
「返事は!?」
「了解しました」
あの化物の前に行って来いというのだ。尻込みもするだろう。
部下達も結局はお金で雇われ、あの契約書にサインさせられて彼の部下となっているのだ。
決して、彼に惹かれている訳じゃない。
「すいません、トラック借りますね」
「あ、あぁ……気を付けて行って来いよ」
幸いにもトラックはオートマだった。
実はと言うと俺の免許はオートマ限定である――異世界では関係無いだろうが。
「モナカを止めたら、残り2人も一緒に拘束して――そのスマホに落としてあるアプリを起動し、スピーカーを最大音量にしてウナボロスとエビーモスへ向けなさい」
芝田に俺のスマホを投げて寄越される。
確かにスマホには、見覚えのないアプリがインストールされているようだ。
「分かりました」
俺はトラックのエンジンを掛け直し、アクセルを踏み込んで森の中を全力で走る――あの海産物達の先頭を走る、後輩の下へ。
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