異世界でラーメンを食べる2
「さて……確か前に来た時は」
こちらの時間帯は夕方のせいか、市場も店仕舞いが目立つ。
俺はエルフやドワーフ、オーガや獣人といった人らが
「よし、まだやってた」
そこは市場の外れに位置し、そこに建物などは無く、空き地にラーメン屋の屋台を出しているのだ。
もう令和の日本では珍しい人力で引くタイプの木造屋台だ。
屋台の前には折りたたみの机と椅子が並び、どの席も客が座りラーメンを啜るか、酒を飲んで騒いでいるようだ。
「参ったな……おっ」
「大将、ごっそさん」
「また来るよー」
運良くカウンター席が2つ空いた。
これも日頃の行いだよな――と思い席に着く。
「さて……何食べるか」
ここの大将は頭に角が生えた赤い肌色のオーガだ。タンクトップにエプロン姿は意外にも似合っている。ただそのエプロンがファンシーな絵柄なのは、彼の趣味だろうか。
オーガの大将は俺のよく知る日本の“鬼”にそっくりで、ある意味親近感が湧く。
その無骨な手から信じられないくらいの繊細な味わいのラーメンが出てくる――そういう噂を耳にしたので、前回はここに決めたのだった。
ラーメンのスープはコカトリスの鶏部分と蛇部分、各種野菜やスパイスと一緒に寸胴に入れ、骨ごと煮出した鳥蛇スープから漂う匂いは非常に腹を鳴らす。
味の方は
前は魚醤の方を食べたのだが、俺の知っているモノとは味も違う気がするが、そこを楽しむのも異世界飯の
やはり今回は塩を頼む事にしよう。
「「塩で」」
ん?っとなり隣を見ると、いつの間にか新しい客が座っていたようだ。
肩の高さで切り揃えた金髪に紅い瞳の女性だ。装飾の入った立派な鎧を着ている。騎士か何かだろう。
女性はこちらに気付くと、軽く会釈する。
「すいません。現場から直帰で鎧脱ぐ暇が無くて……」
確かに屋台のカウンターなのでお世辞にも広くはない。少し身体を揺らすと鎧の尖った所に当たりそうではある。
「いえいえ、構いませんよ」
特に気にしていないので正直に答える。
大将は既に調理に入っていた。
細麺を茹でカゴに入れ、手早くドンブリに塩ダレを入れる。
麺が茹で上がる直前に、
具材はエリンギのようなキノコを魚醤に漬け込んだモノ、スライムを天日干しで干したモノを薄切りにして刺身状にしたモノ――そして大将自慢のマモノ肉のチャーシューだ。
これだけでも脂身と肉汁たっぷりで充分に美味い。後ろで酒を飲んでる連中は大抵コレをツマミにしている。
原材料は野生の魔物の何かの肉……としか知らないけど美味しいから問題は無い。
あとはコカトリスの脂で作った油を垂らし、細切りにしたハーブを載せて完成だ。
ぎゅるる――。
匂いを嗅いで思わず腹が鳴ったのは――隣の女騎士だ。
「……失礼」
耳まで赤くしているが、周りの客はもちろん俺も気にしない。
無言でいるのも気まずいので適当に話題をふる。
「ここのは美味しいからなぁ」
「自分は初めてです。騎士団で評判になってて……」
「私はまだ2回目ですが、ここはオススメですよ」
「はいよっ。丸ごとコカトリス汁そばの塩! おあがりよ!」
ちなみにあまりにラーメンに似ているので俺が勝手にそう呼んでいるだけで、実際は現地の言葉で呼び名が違うみたいなのだが――その話は後にしよう。
さっそくマイ割り箸を取り出す。
ここ異世界ではさすがに箸は無いらしく、テーブルにもレンゲみたいな深い匙はあるが、あとはフォークしかない。
「いただきます……ずるずるっ」
「ズズッ……はぁ」
女騎士は麺から、俺はスープから味わう。
昼飯から何も食べていない胃に、少しトロみの付いた熱いスープが流れ込む。
じんわりと身体の芯から温まり、額に汗が浮いてくる。
鶏とは少し違う野性的な味だが、意外に口当たりはあっさり。しかし味はしっかりと濃い――良い塩梅だ。
「ずるっ、ずるる――」
スープで口の中の味を決めたら、次は麺を啜る。
細麺のストレートなので絡まないかと思えば、意外に絡んでくるのだ。スープにトロみが付いているからだろうか
麺とハーブ、チャーシューの匂いが鼻から入り、さらに食欲を掻き立てる。
麺は一段落させ、スライム刺身を食べる。プルプルした食感はまさにキクラゲだが、これも意外とスープに合うのだ。
さらにメインのチャーシューにも箸を付ける。
箸で
嗚呼こうなるとアレが欲しく……。
「夜食に買ったけど、結局食わなかったコレがあるじゃないか」
通勤用の四角いリュックから、夕方にコンビニで買った塩むすびが2つ。
俺はコンビニおにぎりの中でもこの塩むすびが1番好きだ。
ちなみに日本で他店の商品を持ち込むのはマナー違反だが、ここの屋台ではツマミなど持ち込んでシメにラーメンを頼む客も多いので、多分大丈夫だろう。
「ずるる――もぐ。ズズッ――もぐ……美味いっ」
麺とスープを啜りながら左手のおにぎりを食べる。なんて行儀の悪いことか!
しかし、これが美味いのだ。やはり俺は日本人で良かった。
そして食は進み、食べ切ろうとラストスパートを掛けた最中――。
「お、おい――それはなんだ?」
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