異世界で卵料理を食べる2

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「いやぁ絶景絶景ッ」


 休憩所、と彼女は言ったが崖に掘られた奥行き3mほど、高さ1mほどの簡易洞穴だ。

 座る分には丁度良いが、人間2人と荷物を置くだけでいっぱいになる程度の広さだ。


「実はここの休憩所はワタシが掘ったネ。他の獲物を待つ時にも使ってて、結構何日も粘る事もあるからネ」


 頂上にほど近いこの場所は、確かに“待つ”には便利なのだろう。

 彼女は登山用のフードを脱ぎ、靴も一旦脱いで部屋の隅に置いた。

 桃色の髪と、長い耳が特徴的だ。見た目の年齢は若く、まだ中学生くらいにも見える。

 どうやらエルフ族らしいのだが、町でたまに見かける彼らの姿を頭に思い浮かべると、髪色の特徴が一致しない。


「もしかして、この髪気になるネ?」


 俺の視線に気付いたのか、自分の髪を撫でるリーエン。


「はい。エルフの方って金髪の方が多かったような気がしたので……」

「そうあるネー。森のエルフは金髪が多いし、洞窟に居るエルフは銀髪だし……この色は珍しいかもネ」

「――何か、理由でもあるんですか?」

「ふふん。この色は、とあるニークリップという希少食材の花があるんだけど……美味しすぎてうっかり食べ過ぎて気付いたら、この色に染まってたネ」

「……」


 大した理由では無かった。


「いやもう凄い美味しくて、ちょっと絶滅寸前までいっちゃったけど、まぁ昔の話ネ」


 そんな理由で1つの品種を絶滅させかけるってどんだけ食べたんだろう。

 ちょっと俺も興味が湧いてきたが、髪が桃色になるは避けたい。


「さて。そろそろ行くネ。あともう少しのひと踏ん張りヨ」

「はい……」


 またあの崖を登るのを考えると、あまりテンションは上がらなかった。


 ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■



「ふー。ここが頂上にあるあのクソ鳥の巣ね」

「ぜぇ……ぜぇ……」


 標高なんメートルあるかは知らないが、人生で登った事のある山の中では1番高いであろう。

 周囲を見渡せば、色んな渓谷と山を見下ろせるほどの高さだ。

 遠くに鳥が飛んでいるのが見えるが、実際には人間より遥かに大きい魔鳥なのだろう。


「ここ最近のスケジュールだと、クソ鳥は魔王国の領地で遊んでいるみたいネ。帰って来ない内に、卵拝借しとくネ」


 不死鳥とやらはやはり大きいのだろう。

 巣に鎮座しているその卵は、昔見たダチョウの卵を遥かに超える大きさだ。

 具体的には俺の肩くらいはある。大体150cmくらいだ。

 それが3つも並んでいるのは圧巻である。

 

「不死鳥は先に生まれてきたひなに、残りの卵を食べさせる習性があるネ。あんなに美味いのに勿体ないし、1つくらい持って行ってやるネ」

「リーエンさんは、やはり食べた事があるんですか?」

「もう何年前になるか忘れたけど、食べた事あるネ。そりゃもう今まで食べたどの卵より美味かったヨ」

「ほぉ……」


 それなら苦労してここまで来た甲斐があるというものだろう。


 ふと――。

 

 何かの視線を感じる気がして、振り返った。

 ここはどの山々より高い頂上だ。誰かの視線なんて感じる訳が――。


「どうしたネ、オダナカさん」


 俺は遠くの方を見た。

 青と白しか無い空に、突然出来た赤いである。

 それを見つけてリーエンを呼ぶ。


「えっと、リーエンさん。向こうから、なんだか赤い塊のようなものがこちらに……」

「赤い……あっ、クソ鳥のやつ帰って来たネ!」

「えぇ!?」


 俺が驚きの声を上げる頃には、もう目の前へと迫って来ていた。

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