第8話

異世界で卵料理を食べる1


 突然だが、鶏卵は素晴らしい食材だ。


 昨今の値上げにより昔よりは気楽に手が出し難くなったと世間の声もある、

 しかし栄養価は高く、保存もそれなりに効く(殻から出さない場合に限る)し、日本では安全に生でも食べられる(外国で生食は危険らしい)という、定番の食材である事は揺るがないだろう。


 その用途は色々とある。

 そのまま焼くと目玉焼き。出汁や具材を入れて蒸せば茶碗蒸し。牛乳に砂糖を入れて熱を加えて冷やせばプリン――。

 黄身と白身を分けて使うこともある。マヨネーズなどの調味料にも欠かせない。


 活用方法が千差万別の万能食材だろう。


 だが、しかし――。


 ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■

 


 ヒュウゥゥゥ――。


「何故――こんな事に」

「オダナカさん。もう少し、もう少しで絶品料理食べれますからネ!」


 今、俺はとんでもなく高い山の、とんでもなく深い谷の、幅50cmしか無い板で出来た道を、崖にへばりつきながら頂上へ向かって登っていた。


 何故こうなったか――その説明は簡単に済むだろう。


 俺がご飯の上に目玉焼きだけ乗せた料理を作って食べていた。

 でもいつも鶏卵だし何か変化が欲しいな――と思ってしまった。

 いつものように思い付きで白い鍵で扉を開けると、何故かとある山のキャンプ地に飛ばされ――、


「希少食材料理家のリーエンっていうあるヨ。卵? もちろんOKネ!」


 卵を食べたいという事情を話すと、快くを承諾してくれた。


 同行――?


「な、なんで一緒に着いていく事になったんだろう……」

「オダナカさん、アナタは運がイイ。この山と谷にはグリフォン、ハーピィ、ガルーダと色んな魔鳥の住処なのネ! その中でも1番の珍味である不死鳥の卵を食べられるなんてネ!」

「ふ、不死鳥!? そんなの食べて大丈夫なんですか!」

「まぁ不死鳥なのはただの異名ネッ。古来よりその血を飲めば不老不死になれるなんて言い伝えもあるけど、たぶん卵に関してはセーフね」

「……いや血を飲んだら不老不死になるんですか?」

「サァ? 化け物の血肉食っただけで不老不死になるんなら苦労しないネ」

「……その化け物の卵、獲って大丈夫なんです?」

「奴は頭いいから人の言葉分かるネ。それで人間達の前に現れて、『お前に不老不死を与えてやる。さぁ1人だけ血を飲ませてやろう』なんて冗談言って人同士争わせて楽しんでいる害鳥なんで大丈夫ヨ」

「……何か大丈夫な部分ありました?」

 

 そんな雑談でもしながらでもないと、ふと足元を見てしまいそうだ。


 当然この板の下は谷の底であり、しかもこの板も長年の風雨に晒されたせいか、たまに腐っているモノもあるし、コケが生えて思わず滑りそうにもなる。

 目の前の少しイントネーションが独特な彼女、リーエンは慣れているのだろう。さくさくを進み、危なそうな所はちゃんと忠告してくれる。


「ひ、ひえぇ……」


 俺の胴体にはロープが繋がっており、それは彼女の胴体とも繋がっている。

 つまり俺が落ちた場合は、魔力で肉体強化のできる彼女が引き揚げてくれるのだ。


 そして、彼女が落ちた場合だが――その場合は、運命を共にする事になるだろう。


「さぁ。今日のお昼までに休憩所まで行くネ」

「は、はい……」


 ここまで来たら、とにかく着いていくしかなかった。

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