異世界で屋台飯を食べる4
祭りも終わり、俺はいつものようにこちらへ来た物置小屋の扉を開けようとすると――老婆が出てきた。
どうやら物置小屋だと思っていた建物は、この老婆の住処だったようだ。
「おやまぁ。どなたですか?」
「いや、あの、私は――」
この状況で納得のいく説明が出来ないかと思案していると、老婆はその細い目の見開いた。
俺を見ている訳ではない。俺の頭に付けた2枚のお面を見ているようだった。
「そのお面は……」
「これです? これは祭りで知り合った子供達がくれたもので……」
「そうですか――あの子達は、元気にしてましたか?」
「元気だったんじゃないんですか。俺のフワフワ焼き持って行かれたし」
もしかして、この老婆はあの子達の祖母なのだうか。
だとしたら恨みがましい物言いは失敗だったかもしれない。
「ふふっ。そうですかそうですか――立ち話もなんだし、お茶くらい出しますよ」
「えーっと、それじゃ失礼して……」
神の国にまつわる不思議なおとぎ話を聞かされたのだが、正直あまり興味が無く半分も覚えていない。
ただ、神の国との接点が深くなる祭りの日には――神に愛された子供の姿をした使いが降りて来るのだという。
使いは下界の人間の顔を見て、気に入った人の魂を国へと持ち帰る役目があるとか。
「お面を付けていると、誰が誰だと分かんないからねぇ。使いの人も、誰を連れて行っていいか分かんなくなるんだよ」
「そうなんですか」
そんなはた迷惑な奴が居るのか。
お面をしていて良かった……。
「でも使いってのは、案外手先が不器用らしくってね。だからみんな、分かってて遊ばせてあげてるんだよ」
「へぇー」
そういった話をしばらく聞いた後、老婆の家を後にした。
正直老婆が寝入ってからもう1度扉を開けに行くのは忍びないので、俺は久しぶりに金の鍵を使うことにした。
ここにはまた来年、来ようと思う。
「次こそは売り切れていたフワフワ焼きを食べるぞ」
こうして俺の腹迷子事情は、解決したのであった。
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