第16話

女騎士とレストランへ行く1


 2月14日。


 そう言われれば誰もが頭に思い浮かべるイベントがある。


 バレンタインである。


 コンビニ、スーパー、駅構内はもちろん会社までの通りにある店までバレンタイン一色である。

 2日の節分が終わった瞬間から既にバレンタイン商戦は始まっていたらしく、今日までずっとチョコの話題に囲まれてきた。

 毎年恒例で部署内の女性陣がチョコ菓子を配って終わる程度のイベントではあるが、中には浮足立っている独身男性社員もいるだろう。


「はい、小田中さんの分です」

「ありがとうございます」


 仕事以外では、ほぼ話した事のない女性社員からチョコサンダーという菓子を貰い、俺はインスタントコーヒーを飲む。


「はい、村上さんもどうぞ」

「どうも」

「これ、オマケしときます♪」

 

 隣の席の、イケメンで有名な後輩の村上がチョコ菓子と、丁寧にラッピングされた箱を受け取る。いわゆる本命というやつか。

 彼は困った表情で受け取りながら、1番下の引き出しにチョコ菓子を入れる。

 チラッと見えたのだが、色んな箱が折り重なっていた。


 (そんな漫画みたいな奴居るんだな……)


 そう思っていたのが通じた訳がないだろうが、村上は周囲の様子を伺いながらこちらに小声で話しかけてきた。

 

「小田中さん。どうしましょうか」

「なにが?」

「僕、甘いモノが苦手なんですよね……特にチョコが苦手で」


 なら貰う前に言えよ……という言葉が喉まで出かかるが、それはさすがに大人げないと思い、飲み込む。


「はぁ……」


 代わりに味気の無い返事を出してしまう。

 村上は特に気にした様子も無く、いくつかの包装された箱を掴む。


「少し、貰ってくれませんか?」

「さすがに、くれた人に悪いでしょ」

「お返しはもちろん全部僕がするんで……次仕事とかで何かあったら、手伝いますんで……お願いします」


 隣同士仕事もよく一緒にする事もあるし、今後の人間関係を円滑する為だと――己に言い聞かせる。


「分かったよ。でも俺もそんなにはいらないぞ」

「助かります――残りは他部署の友達にも聞いてみます」


 バレンタインに自分が貰った訳でもないチョコを貰う――どこか寂しくも思えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る