異世界で食べる海の焼きそば1


 8月のお盆休み。

 久々に実家のある九州へと帰って来た。


「おー雄二郎。久々に帰ってきちょったか」

「叔父さん。お久しぶりです」


 実家には今、叔父さん夫婦と姪が住んでいる。

 俺の親父とお袋は色々あって早くに他界してしまい、弟である叔父さんが実家を引き継いだ。

 既に社会人で仕事もあり、一人暮らしをしている俺はこの実家の管理など出来ないので、叔父さんには助かっている。


「ユメコは今、お友達と遊びにいっちょるからのぉ」

「僕も墓参りが済んだら、すぐに東京へ戻るつもりです」

「おいおい。もうちょっとゆっくりしとったい」

「いえ……ご迷惑をお掛けする訳には」

「なぁにが迷惑よ。ここはお前さんの家じゃなか」

「いえ。ここはもう、僕の家ではありません」


 俺はお土産の東京ナナナを叔父さんに渡し、家の墓のある墓地公園へタクシーで向かった。

 最近は日中40度を超えるのも珍しくなくなり、昔よりセミの声が少なくなったと思う。

 まずスーパーに寄って貰い、しきびと菊の花を少し購入する。このご時世、線香とお菓子はあげましたとしてもすぐ持って帰らないといけない――線香は火の危険があり、お菓子はカラスなどが食べに荒らすからだ。

 待たせていたタクシーに再び乗り、墓地公園の入り口で降ろして貰った。

 入り口には水場があり、桶と柄杓ひしゃくは無料で貸して貰えるので、桶に水を汲んで持って上がる。

 そこから階段を少し上がり、通路を曲がると――多くの墓石が並ぶ中に『小田中家』と書かれた墓石が立っている。

 

「……」


 特に何を思う訳でもなく――俺は枯れた花をビニール袋へと入れ、軽く雑草を取る。

 柄杓ひしゃくで水を入れ替え、残りを墓石へと掛ける。

 用意したしきびと花を活け、両手を合わせた。


「――異世界があるんだから、あの世も実際にあるんだろうか」


 もしあったとしたら、親父達は何をしているのだろうか。

 俺の飯好きは確実に親父の教育の賜物だろう。

 昔からお袋に内緒で、色んな店に連れて行って貰った。地元のラーメン屋、ちゃんぽん屋、焼き鳥屋にハンバーガー屋。

 中学生の頃はもう力士になるしかないくらいの体重だったが、そこから必死になってダイエットをしたおかげか、今では中肉中背くらいで落ち着いている。


「あの世で食べ過ぎて、お袋に怒られてそうだな」


 立ち上がると。少し立ち眩みが起こりそうになるくらいには暑い。というより痛い。


「さて。いつも通り、飯でも食べて帰るか」


 桶などは元の場所へ返し、公衆トイレの中へと入る。

 開放的な造りだが、個室にはさすがにドアがある。

 そこへ黒い鍵を差し込み――ドアを開けた。


「これが白い鍵なら、あの世に繋がったりするんだろうか」


 自分で考えてみて、それはゾッとしないなと、俺は思った。

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