異世界で食べる海の焼きそば2


「オダナカ殿、海に行きましょう! 海!」

「なんですかいきなり」


 いつもの屋台は、実は先月末から無くなっている。

 あの空き地には今、新築の店舗が建っている途中なのだ。

 それは知っていたので、店の前を通り過ぎようとしている所でアグリさんに捕まった。

 何故か白い馬と一緒である。この馬、少し毛のようなものがフサフサしているような――。

 

「大将が新しい店が出来るまで、海で屋台を出しているらしいんですよ! しかも新メニューの試作を出しているとか。これはもう、食べに行くしかないと思うんですよ」

「新作メニューか……」


 あのバジリスクスープのラーメンと、自慢の鳥チャーシューをご飯に乗っけたチャーシュー丼の他に何か新店舗用のメニューを出すのだろう。

 なんだかんだと常連である俺も、それは気になる。


「ところで海ってどこにあるんです?」


 俺の記憶では、この国には大きな湖しかなかった気がしたが――。

 

「ここから少し南下した所に、この時期に潮が満ちた時だけ海になる湖があるんですよ。川を海水が遡ってきて、湖に流入するのです。なので、実質海です」


 いわゆる汽水湖というモノだろうか。

 しかし、あちらの常識だけで測れないのが異世界というものでもある。

 実際の海はさらに南下して隣国へ入る必要があるので、国内ではそういう楽しみ方もあるんだろう。


「では行きましょうか。ここから近いんですか?」

「乗合馬車だと半日は掛かるので、私が騎士団から連れて来た馬で行きましょう」


 その馬はそういう事だったのか。

 凛々しい顔つきに鋭い眼光の、只者――只馬ではないオーラを発している。荷物もぶら下げている。


「1匹しか居ないようですが……いや、そもそも私は馬に乗った事が無くて……」

「後ろに乗ってください。私が魔法と併用してかっ飛ばせば、ものの数時間で着きます」

「……ではお願いします」


 なんか既に嫌な予感がするが、他に方法は無さそうなのでお願いするしかない。

 俺は教えてもらった通りに、鐙に足を掛け、鞍へと跨る。

 彼女も同じように乗り、手綱を握る。


「ちゃんと捕まってて下さいよ」

「では失礼して」


 俺は彼女の鎧越しに抱き着く格好だ。

 顔に後ろ髪が掛かって、若干くすぐったい。


「行きますよー。ハイヨー、白銀の獅子号!」

「なんなんですかその名ま――」


 いきなり加速した馬は、かなりのスピードで街の中を駆け抜け出した。

 いくらなんでも危ないのでは無いか――そう言いかけたが、既に“地面”は遥か彼方であった。

 よく見れば毛だと思っていたモノは翼であった。つまりこの白馬は天馬ペガサスだったのだ。

 

 しかしそれはまだ序の口だった。上昇が済んだと思っていたら、彼女の身体から白いオーラのようなモノが出て、それがペガサスにも覆われた瞬間――さらなる加速が、負荷が俺の身体に掛かってくる。

 それだけで吹き飛んでしまいそうな速度だが、これも魔法の力なのか身体は鞍の上で固定されているようだ。まぁ落馬しないだけで、負荷はそのまま伝わってくるのだが。


「ももも、うちょっとスピードを――」

「さらに飛ばしますよー」

「――――――」


 提案は風圧に搔き消され、そのまま数時間空の旅を満喫するハメになったのだった。

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