異世界で焼き肉を食べる2

 

「いやー小田中君。今日も暑いねぇ」

「そ、そうですね部長」


 ここは会社から遠く離れた京都。さらに言えば競馬場だ。

 仕事で部長と共に出張で来ているのだが――面倒な事になったのだ。


「会長の馬が出走するのは……11時頃みたいだね」


 我が社はある大手グループの系列会社なのだが、そこの会長が根っからの馬好きでたまにこうして系列会社の社員へ、無料で指定席のプレゼントをしてくれる。

 正直競馬は全く興味無いので、有難迷惑ありがためいわくである。

 社内の色んな部署が持ち回りでこの指定席を消化しているのだが、ついにウチにも回ってきたのだ。


「ショウコサンって変な名前ですね」

「会長の愛人の名前らしいから、他ではあんまり言うんじゃないぞ」


 もう7月に入り梅雨もまだ続くかと思えば、今年は空梅雨なのかあまり雨が降らなかった。今日も曇りではあるけど雨は降りそうにない。おかげで肌に纏わりつくような湿気で、吹き出す汗でシャツが濡れている。


「応援馬券って確か、マークシートにここを塗って……だったかな」

「はい。そうみたいです。後は券売機で買うらしいんですけど」


 屋内指定席なのは有難いが、やはり人が多くて隣の人とも近く暑苦しい。

 さらに席を立って後ろの通路を出て3階の券売機まで来たのだが――人が多すぎてどこに目的のモノがあるか分からない状況だ。


「ひゃー多いな。小田中君、ここは私に任せてくれ。君は何か、そうだな。ビールとツマミになるものを頼む」

「分かりました」


 3階のマップを確認して、たこ焼き屋に行く事にする。

 人を合間を進んでいくと、目当てのたこ焼き屋はあった。

 ただし、列の最後尾が分からない。


「マジかよ……」


 なんとかレース開始までに買えて戻れたが、俺も部長も既にノックアウト寸前である。

 互いにたこ焼き食べつつ、ビールを飲みながら他愛のない世間話などをする。


「おっ、そういえばさっきそこのお姉さんからこんなモノを貰ったぞ」


 ウマ耳が付いたカチューシャだ。女の子が付ければ可愛いだろうが――。

 何故か俺の頭に付ける部長。

 さてはもう酔っぱらってるな。

 

「お子さんのお土産にすればいいじゃないですか」

「……最近、娘が一緒に風呂に入ってくれなくなった」


 まだ娘さんは小学校低学年くらいだったが、やはりそういうお年頃なのだろうか。


「京都土産で何か良さそうなのがあれば機嫌取りに買って帰ろうかな……」

「金平糖なんかいいんじゃないですか。見た目、奇麗ですし」

「それだ!」

 

 レースが終わり、帰りは部長と一緒にタクシーに乗り、途中土産物屋に寄って金平糖と生八つ橋など定番の土産も一緒に購入した。

 そのままホテルに到着し、部長を見送りようやく自由の身になれた。

 

 そして、俺もで部屋で速攻で身支度を整える。

 

「ドアだったらどこでもいいはず」


 ホテルのドアの内側から白い鍵を差し込もうとして、止まる。


「……暑いしお腹空いたし焼き肉が食べたいが」


 この前みたいに海賊船に直乗りとかありそうだ。

 焼き肉が食べたいって願って鍵を使うと、牛の姿焼きを囲んでいる山賊達の集会にでも合流しそうだ。


「ちゃんとした奇麗なお店で、網や鉄板で焼いた肉が食べたいです――」


 ひとまず希望を口に出しながら鍵を差し込み――回す。

 扉は開かれ、俺はその中へと入るのだった。


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