大将とラーメンを売る(最終日)2

「おいおい、こりゃどういうことだよ」


 昼が過ぎ、もうじき夕方という頃――向こうの店から声が聞こえる。

 視線を向ければ、そこには両手に商品の入った袋を提げたモナカが帰って来ていた。

 隣には何故かオルディンの部下であるネーティさんが居る。

 

「そういえば、今日は全然見なかったな……」

 

 あれはどうやらお菓子か何かだろう。後で食べようと土産に持って帰って来たのだろうか。

 隣でネーティさんは動物の形をした飴細工を舐めている。

 

「姐御こそ帰ってくるのはおせーじゃねーか」

「ぐっ……」

「ごめんなさいねぇ。私が会場で道に迷っている所を、助けて貰ったのぉ」

「別にネーティさんは悪くねぇよ! アタシもちょっと一緒に屋台回るのが楽しくなって……いやそうじゃなくて」


 ガンドルからの視線に耐え切れなくなったのか、話題を変えるモナカ。


「問題起きたら連絡しろって言ってたよな! これはどうなんだよ」


 こちらの屋台と、油そば屋の屋台――どっちも行列こそはあるものの、その長さは完全に逆転していた。

 殿下(とアグリさん)に来て貰ったのが効いたかと思ったが、他にも要因はありそうだ。


 例えば、油そば屋は回転率こそ高いが、そのせいで屋台横のゴミ箱は常に満杯だ。机の上もゴミは無くとも、奇麗に拭けてなかったりする。

 それと味付け。未知の美味しい味がみんなの興味を引いたが、追加の調味料は全て日本から持って来たモノ――異世界の人達には、やはり刺激が強すぎたようだ。

 長引くほど噂は噂を呼び、次第に人の流れが変化していった――。


 こちらは濃厚さではあるが、コカトリス特有の優しい味をメインに据えている。

 元々異世界の人が好む味付けなので、時間さえ経てばあるいは自然とこうなっていたのかもしれない。


「ぐっ――それは……モナカの姉御!」

「な、なんだい」

「色々今まで協力して貰ってこんな事言うのは筋違いだとは思うけどよ……オレは、オレのやり方でバルドの奴を――」

「だ、か、ら! お前の個人の事情とかどうでもいいの! お店の将来考えろよ!」

「だからその店の将来を考えたんだ! こういう未知の味もいいけどよ……やっぱ今の油そばの形は変えたくねぇんだよ。上手く言えねぇけど……」

「……ここで言い争っても仕方ねぇ。ひとまず、アタシも客引きに入るから。お前も持ち場に戻れ」

「……へい」


 これであちらも初日の勢いを取り戻すかと言えば――正直難しいだろう。

 もっと早くに彼女が戻ってきていれば、あるいは挽回が可能だったかもしれないが――。


「まさか……」


 ある考えに思い当たり、視線をネーティさんへ向けると……彼女は飴細工を舐めながら――どこかへ行ってしまった。


「……いや、ひとまず目の前に仕事に集中しよう」


 そして、それからしばらくして――終了の放送が会場へ響き渡ったのだった。


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